第二話 ハードロック①ー1

「ソウト。早速なんだけど、一緒に行って欲しいクエストがあるの!」


 昨日一段落付いたところで、ミカサにそう言われた。


 ミカサとは昨日パーティを組むことを約束した仲間であり、そして異世界転移仲間でもある。その上俺にとっては命の恩人でもあるため、ミカサからの頼みを無下に断ることも出来ない。


 そう言った経緯もあり詳しい説明を聞く前に二つ返事で了承し、口約束ではあるがオレとミカサはパーティとなった。


 ということで今は異世界らしい場所――ギルドに来ていた。


「ここでクエストの受注をするのか」


 オレはそのギルド内を見渡す。テーブルと椅子がいくつも並べられており、ライトの代わりに蠟燭の明かりが薄っすらと建物内を照らしている。暗い雰囲気のレストランのような内装だ。広さは体育館ほどあり、その空間に簡素な装備を携えた冒険者が何人も座っている。その殆どが3、4人というまとまった人数だ。


 そして一つの区画に立てかけられている黒板のような物に、何十枚もの張り紙が貼ってある。これがこのギルドで受けることが出来るクエスト内容らしい。

 だがその紙には文字は書いていない。全てオレの見慣れない絵のみで構成されている。どの張り紙がどのようなクエスト内容なのか、予想すら出来ない状態だった 。


 オレは訳の分からないクエストの張り紙を眺めていると、ふと些細な疑問が浮かび上がった。


「そういえば、ミカサは何か魔法は使えるのか?」


 クエストに挑むためには、そのクエストに見合った力が必要だ。だからオレはオレ達のパーティの総合力を把握する必要がある。


 オレはまだ大層な武器もなく、微力な魔法すらも使えない。本当に普通の高校生と同じだ。


 つまりクエストに挑む以上ミカサの戦闘力が肝となる。

 そんなオレの質問にミカサは自信満々に答える。


「勿論だよ! あたしは水魔法ならなかなかの力を持ってるよ!」


「何か自信満々なせいで信頼できないんだけど」


「なんでよ! ちゃんと魔法を使えるんだってー」


 さすがに魔法使いらしい格好をしているだけあって魔法は使えるようだ。その威力は分からないが、魔法を使えることを疑う必要はないようだ。


「そこまで言うならミカサの他にパーティメンバーはいないのか? 強力な魔法を使える魔法使いなんて、この世界なら引く手数多なんじゃないか?」


 ここにいる人の殆どはまとまって行動している。すなわちパーティを組んでいるということだ。そして一見しただけだがパーティというのは簡単な協力関係であり、その人数制限などはない。そんな様子を見てふと湧いた疑問だった。


 だがその質問は禁句だったようだ。ミカサは俯いて重い口を開いた。


「あたし、魔法自体は強いと思うんだけど。なんて言うか制御がうまく出来なくて、大体2、3回クエストに行くと暴発しちゃってパーティから外されるの」


「……」


 威力はあるが制御不能の魔法使いと聞いて、すごく納得した。まさにミカサらしいと。

 やっぱりミカサはポンコツだった。


「『やっぱりポンコツだ』って思ったでしょ! だけど理由はそれだけじゃなくて……だからソウトはあたしを見捨てないでー」


「大丈夫だって。当分は様子を見るからさ」


 何故かオレに泣きついてくるミカサをオレが受け入れる構図になっている。


 だけどオレはミカサに助けて貰った上に、戦闘力も魔法が使える分だけでも確実にミカサの方が上だ。そのため立場的には逆だと思うが、何となくノリで上から発言しておいた。


 それにすでにポンコツが露呈しているミカサのキャラクターも分かってきた。


「で、ミカサはどのクエストに挑むつもりなんだ? 言っとくが、オレはモンスター相手にまともに戦える戦力ではないぞ」


 オレはそう言って自分の胸を叩いた。所々がトレントとの激戦の末破れたジャージを着ており、それに持ち物は刃の欠けたサバイバルナイフのみだ。財布はミカサの家に置いてきた。現金すら持ってない。無一文だ。


「あたしが行きたいクエストは戦いに安全だから安心して」


 何か含みのある言い方だが、そのことは一度聞き流すことにする。そしてミカサは一つのクエストが書かれた紙を指差したため、オレはその紙をのぞき込む。


「えっと――これは?」


 そこには大きな岩のような絵が真ん中に位置しており、山とピッケルのような絵が下に描かれている。


「これはハードロックって言うモンスターから取れる鉱石を取ってきて欲しい、って内容なんだよ。あたしもこの杖の強化にハードロックから採れる鉱石が必要だから一石二投かなって」


「それを言うなら一石二鳥だろ。二回投げただけじゃねーか」


「細かいことは良いでしょ! こういうことだからソウトにもこのクエストを手伝って欲しいの」


「まぁいいけど、俺は戦力になるのか? さっきも言ったがオレは戦力には数えられないぞ」


 もし強敵と戦うようなことになれば、オレは戦えないどころか足手まといになるだろう。ミカサがそのことを本当に理解出来ているのか怪しいところだ。

 だがその心配は杞憂だったようだ。


「それは大丈夫だよ。今回は多分ソウトが思っているような展開にはならないと思うよ。あたしはソウトにトレントから生き延びた知恵を貸してほしいの」


「どういうことだ?」


「それは行ってからのお楽しみってことで♪」


「……その発言は大体良くないフラグなんだけどな」


 ミカサは大きな瞳の片方を閉じてわざとらしく笑った。その表情を見て悪い予感しかしなかった――――



「なんだここは!」


 ――――そしてオレの予想通り悪い予感が的中した。そのクエストの示した場所に着いてすぐにオレはそう叫んだ。


 確かにこの場所はミカサの言う通りモンスターと戦う心配はなさそうだ。あたりを見渡してもモンスターの姿は全く見えないからだ。


 しかしすぐにモンスターがいない理由に気が付いた。というよりも、この場所に向っていた途中から分かっていた。


「これだけ熱い環境だと、モンスターもほとんど生息できないんだな」


 まさにここは「暑い」ではなく「熱い」場所だ。最初に「あつさ」という漢字を区別した人は、天才かはたまたオレと同じように「あつさ」の限度が超えたのかのどちらかだろう。


 俺とミカサは灼熱のマグマを吹き出す火山の麓で、並んで立ち尽くしていた。

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