ゴーレムより恐ろしいのは、私たち人間ね。

 今回の事故及び事件による被害。

 事故発生から二十四時間後の時点で、死者五百名超、重軽傷者二千人超、行方不明者七百人超。細かい数字は報告されていない。ボナパルト錬金術研究所は全壊、同研究所周辺の工業施設は半壊、研究所が面するメインストリートから東にかけての工業地帯及び民家、アパートなど集合住宅は全壊または修復不可能。帝国軍による砲撃(狙撃ミス、流れ弾など)、飛行船の墜落による被害、道路のゆがみなども多数報告されている。しかしそれらの全容を把握するには更なる時間を要する。

 シュトルムラント王国議会大統領アレクサンダー・デツェンバーも護衛と衛生士を引き連れて列車に乗って駆け付け、顛末をエルフリーデから聞かされた。すぐさまボナパルト錬金術研究所に赴き、所長であるリオンフォール・ボナパルトを問い詰めた。

「仕方がなかったんだ。我が国の同盟国は隣国からの侵略を受けている。かの国のゴーレム部隊は非常に強力で、それを駆逐できるだけの強力強固なゴーレムを早急に製造してもらいたいと言われたんだ。だが納期などあってないようなものだし、予算も限られていた。その状況下で何を作れって言うんだ。分かっていたさ! だがあんな化け物でも納品しないよりはマシじゃないか! そうでもしないと我が国は同盟国から見限られ信用を失い、難民を受け入れさせるなどの形で責任を負わせられるんだぞ!」

「だが結果として、君のところの工場はこのような有様。そして無関係な国民たちにも取り返しのつかないことをしてしまった。この責任は、君と、そして君にこのような注文を押し付けた政府にある。来たまえ。きみにはこの罪を償う前に真実を究明する責任があるのだからな」

「うぅ……」

「だが、その前に寄らねばならないところがある。さあ、来るんだ」


 その頃。

 帝国立霊園。

 アークルを失いただの石になってしまった灰色の賢者の石は、立派な墓石を立てられて埋葬された。

「それにしても、悲劇よね。同じ命でありながら、よくここまで残酷なことができるわ。げに恐ろしきは人間だわ」

「戦争だってそうですよ。自国の領土を拡大するためだったら平然と街を壊し人を殺す。それはガイウス歴以前から続く、もはや人類の発展の歴史そのものです。だからと言って、今回も今後もそれで仕方なしとは言いませんけど」

 三人は墓に花を手向け、ルベライトとグラニを連れて霊園を後にする。

 霊園の外で絵は、アレクサンダーとリオンフォール、その他帝国軍兵士たちがいた。リオンフォールは後ろ手に手錠をかけられている。

「お帰りなさいませ、殿下。そしてスミレくんとイレーネくん、今回もよく頑張ってくれた」

「当然のことをしたまでよ、デツェンバー公。さてボナパルト卿……、いえ、リオンフォール・ボナパルト。あなたの研究所が開発したゴーレムコアだけれど、暴走の原因究明のため我が国が資料とともに没収することにしたわ。我が国は今回の事故及び事件に巻き込まれた国民たちの救命活動に応じ、復興の支援も約束してあげたのだから、このくらいはいいわよね?」

「はっ、仰せのままに」

「よろしい。私から言いたいことはないわ。あとはよろしく」

「はっ、殿下。行くぞ、歩け」

 背中をサーベルでつつかれて護送用蒸気駆動車に乗り込むリオンフォール。

 そんな彼の後姿を見て、スミレはつぶやく。

「きっとあの人は焦ってた。結果を出そうってがんばった。そして錬金術研究所の人々も、きっと。その焦りがどこかで間違った道に進んじゃった。わたしは、そう思いたいな」

「だとしても、このような悲惨な結果を出すに至った事実は変えられないわ。あとは彼らが償いきれない罪を一生背負いながら今後の結果を出すのを願うのみ。隣国に住む私たちには、それしかできないわ」

「人は痛い目見ないと何も分からないってことですね。しかし痛いなんてもんじゃないですよ、今回のは」

「然様。姫様、今回のことを対岸の火事と思わず、我が国も気を引き締めねばなりますまい。つきましては今回の事例をもとに、工業に携わる各社に安全第一の理念を周知徹底させましょう。さあ。帰り支度は済ませてありますぞ」

 物資の運搬などでライチョウとハチドリの燃料は使い果たしたため、二台は列車の貨物車に乗せて運ぶことに。メンタルが直接影響する魔法道具であるアイビスは封印し、スミレもルベライトの背中に乗って帰ることにした。

 グラニの手綱を握りながら、エルフリーデは言う。

「ところでスミレ。あのゴーレムコアは『ツェッペリン造船社』に送ることにしたわ。王都からも遠くないし、今度三人で見学に行きましょう」

「えっ? でも造船屋さんにゴーレム? ハルトマンさんの所ならともかく、畑違いなんじゃないかなあ」

「そんなことないわ。ツェッペリン造船の社長フェルナンデス・フォン・ツェッペリンは飛行船の売り上げと融資、そしてハルトマン重工業への協力要請で新しい事業を始めるらしいの。それが『宙船・フルークツォイク』と作業用ゴーレムの研究開発。しくもスミレが考えていた空飛ぶ船と災害対策用ゴーレムと同じことを考えているわ。あなたにとっても勉強と技術供与になるはずよ」

「ホント!? 行く行く、絶対行く! って言うか今から行く! レッツアポなしロケの旅! ついでに突撃おひるご飯! よーし、待ってろぉーっ!」

「あっ、ちょっとスミレ!」

 元気を取り戻したスミレはルベライトの背中から降り、空中でアイビスを起動して王都を目指した。


「ルベライト、競争だーっ!」

「……えーっと。ゴーレムコアが届くの、早くても明日になるのだけれど?」

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