進撃の鉄人
三時間後。
サンティーエ帝国首都ギャリ、南方工業地帯。
ボナパルト錬金術研究所を中心として火は燃え広がり、研究所から巨大な何かが暴走している。人々は逃げ惑い、自衛団や『帝国軍』が避難誘導や消火、被災者の治療や行方不明者の捜索、更には暴走を続ける物体の制圧に向かう。
帝国軍ドラゴン隊偵察兵は、上空から暴走する物体を確認した。
「報告通りだ! ボナパルト錬金術研究所の最新型マシンゴーレムに間違いない! 帝国軍重機隊は標的の前に移動、隊列が整い次第標的を叩け!」
上空からの発光信号を受け取った弓兵重機隊は、『蒸気駆動
ゴーレムは、全長六十フィート(=二十メートル超)、鉄骨のフレームに油圧シリンダーと戦闘戦車にも使われている装甲を持つ巨大な人型ロボットの姿を取る。両腕と胴体、そして頭に当たる部分にはハンマーや斬馬剣や連装砲などの武装が施されており、泥のゴーレムも持っているはずの人間で言う目や耳に相当するレーダーは胴体に集中している。
重機隊の班長が胴体を攻撃するように信号を送ろうとする。だが戦車に同乗していたボナパルト錬金術研究所の開発主任シヤン・ド・ギャルドは猛反対する。
「ダメだ、コアとその周辺は撃たないでくれ! 目と耳を奪われたゴーレムは外部からの情報を一切遮断され、闇雲に暴れまわるだろう! それに兵器として製造したんだ、コアをその程度の火力で撃ち抜けるとは思えない!」
「じゃあどうしろって言うんだ!?」
「下腹部、脚部、関節を狙ってくれ! 動きが封じられればあとはアークル切れを起こすまでのたうち回らせておけばいい!」
「いいだろう、提案を採用する。通達せよ!」
そして重機隊による総攻撃が始まったのだが、脚部もまた分厚い装甲で守られており、関節と言うピンポイントを狙えば外れた砲弾やはじかれた流れ弾が町に更なる被害を及ぼしてゆく。
「……おい?」
「仕方がないだろう! あれが無作為に暴れまわったら今以上の被害が出るぞ!」
「今のを見ただろう。聞けないな。通達、コアを狙え!」
「やーめーてー!」
そしてちょうど、スミレたち三人二頭及び飛行船『ツェッペリン・
飛行船から下りてきた騎士及び魔法士たちに、エルフリーデは命令した。
「それでは行動目的を確認します。我々は帝国軍の指揮下に入り、負傷者の処置と行方不明者の捜索に当たることとなるわ。けれど救命処置の腕前は、スミレの指導もあってこちらが上よ。帝国軍の処置が間違っていると思えば躊躇無く意見しなさい。以上、行動開始!」
そして帝国軍に合流する王国騎士団及び魔法士団。彼らは的確に負傷者に処置を施し、行方不明者の捜索に協力する。その間にも遺体が多く発見され、処置が後回しにされた重体者も事切れてゆく。スミレはこのトリアージが全くできていない現状を見て、重傷・重体者を優先して処置するようエルフリーデと帝国軍派遣隊指揮官に命じさせた。
一方、ゴーレムは飛行船ツェッペリン・ツヴァイが停泊するメインストリートの東へ東へと向かい続ける。帝国軍の奮戦もむなしく、ゴーレムの動きを止めることはできない。
「動きは鈍重なんだが装甲が分厚い。関節もしっかり守られていてまるで弱点がない。あるとしたらアークルの枯渇を待つしかないということくらいか」
「はぁぁぁ。これで丹精込めたコアが壊されずに済む」
「そんなこと言っている場合か!? あんたん
「化け物とは酷いじゃないか!」
「制御もできずただ暴走する、あれを化け物と言わず他になんて言う!?」
「うちの息子あるいは娘をそんな風に言わないでくれ!」
すると、手動ハンドル式ガトリングガンが放った銃弾の数発がゴーレム胸部にあるレーダーにダメージを与えた。その瞬間、それまでずっと歩いているだけだったゴーレムは動きを変え、戦車を踏みつぶし、装備した兵器のうち火炎放射器で焼き払い始めた。
「撤退! 全軍撤退、急げ!」
「ゴーレム反撃開始! 被害拡大!」
ゴーレムの反撃によって戦車の蒸気機関はゆがみ、そこから灼熱の蒸気があふれ熱湯や石炭が漏れ出す。何とか戦車から逃げ出した兵士もゴーレムの火炎放射器の餌食となり、帝国軍兵士の死傷者は増えてゆく。
「うっ……!」
「おい、スミレ!? しっかりしろ、スミレ!」
「誰がどう見てもえぐいわ、これ」
ここは、戦場。
しかし戦争とすら呼べない光景は、一方的な蹂躙。
たったひとつの巨大兵器が、罪なき人々を無慈悲に葬り去ってゆく。
戦争とは無縁の人生を送り、転生してからも平穏な日々を送っていたスミレにとっては目を覆いたくなるような惨状だった。嘔吐を繰り返し、背中を震わせ、地面を引っ掻きながら滝のように涙を流す。そんなスミレの背中を、イレーネは叩く。
「もう休め、休んでいい! ボクだって辛いよ、こんなの!」
「人を救うことはいとも難しく、人を
とうとうゴーレムは、工業地帯に密集する各社工場や民家、アパートなども攻撃し始めた。一般人や工場作業員は避難しているが、物的被害は拡大する一方だ。
もう駄目だ、あんな化け物止められるわけがない。そう誰もが諦め、ゴーレムのアークル切れを待つという判断に移行しつつある中、開発主任のシヤンは「それはできない」と言い放つ。
「なぜだ! ここまで来てなお我が子可愛さにあんな化け物の救済を望むか!?」
「そうじゃない、そうじゃないんだ。あのゴーレムの背中を見てみろ、あのユニットがある限り、ゴーレムは止まらない」
「何なんだ、あれは? 排煙排熱ファンのようにも見えるが……?」
「逆だ、あれは吸い込んでいるんだ。空気中に漂う微生物や我々人間が放出したアークルを。あの、『アークルインテーク』が」
つまり。
「バカな……。それではあのゴーレムは、その場にアークルを放出し続ける生物がいる限り半永久的に稼働するということではないか。ここら一帯が焼け野原になるまで、あいつは止まらないということではないか!」
絶望に浸るシヤンと帝国軍兵士。
そんな彼らも、ゴーレム頭部に搭載された連装砲の餌食となった。
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