第二章 ツァウバー・リッター出動! -後編・三人の魔法士-

『魔法』とは

 さて。

 一言で『現代魔法』と言っても、大まかに言えばそれは『物理学や錬金術とは異なる、生命因子アークルを用いて一定の現象を起こす技法』となる。

 そのアークルを用いて現象を起こすことができる、ふたつの技法がある。

 それが『魔法』と『魔術』である。

 魔術は錬金術と同じように、一定の設備や環境や材料を用意し、しかるべき手順を踏んで発動させる。魔術の場合、アークルが材料にも燃料にもなる。そしてこれは学問とされ、素質のある者が学べば大抵の者が習得可能である。

 対する魔法は、アークルと術者のイメージだけで発動するものであり、それはほとんど学問ではない。魔法の師匠についたからと言って魔法を扱えるようになるとは限らず、師匠と同様同質の魔法が扱えるようになるとも限らない。要は、術者自身がアークルを現象に変える感覚をつかみ、それを自分なりにどう練り上げてゆくかが重要である。

 話を戻すが、魔法も魔術も根本ではアークルを必要とする技法であり、それらはアークルを必要としない錬金術と物理学とは一線を画している。それどころか、三百年ほど前は魔法使いも魔術士も『悪魔の尖兵』として恐れられ、どちらも弾圧・迫害を受けてきた歴史がある。そう言う過去もあり、現在シュトルムラント王国では魔法も魔術もひとくくりにして『現代魔法』と呼称することを推奨している。

 だが、スミレだけは過去の迫害についてあっけらかんとこう述べた。

「それってシャーマンと同じことじゃないでしょうか。神様の声を聞き、自然の声を聞き、お祈りをして自然にちょっとだけ干渉することで人々の暮らしを豊かにする、それがその時代の魔法や魔術だと思うんですよ。それなのにいじめるなんてひどくないですか? わたし、幼馴染から聞いたことがあるんです。『人は自分たちとは違うものを嫌う、だから遠ざけるしいじめるんだ』って」

 いまだに古い価値観を引きずる大人たちは、頭に雷を落とされたと述べた。


 そして九月。

 新年度、新学期を迎え、スミレとエルフリーデは高等教育科ギムナジウムに進学した。

 更にスミレは魔法士になるための勉強を重ね、エルフリーデは資格だけでも取らせてくれと王妃でもある母クラーラに懇願し、そろって試験を受けて一発合格。ふたりとも八級からのスタートを切り、スミレは魔法の分野で、エルフリーデは魔術の分野で、魔法士としての研鑽を積んでいった。

 学舎は城下町に、魔法士団屯所は城にあるため、双方に通うことに苦労はしていない(ルベライトも成長したため、少女ふたりなら軽々と乗せることができる)。スミレとエルフリーデは半年かけて三級にまで上り詰め、スミレがやりたいこと、すなわち防災と救命の魔法士としての行動方針がまとまりつつあった。

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