前日譚 生きたい願い / 序章 救国の魔法士団

前日譚 生きたい願い

 始まりは、対島菫つしま すみれが小学四年生のころ。

 小学校の行事『河川敷デーキャンプ』で訪れた川で、段ボールに入った子猫が流されていた。スミレはその子猫を段ボールごと救助することはできたのだが、その直後、右手と両足が『護床ブロック』と呼ばれるコンクリートブロックの隙間に吸い込まれてしまった。

 学校の先生や駆け付けたレスキュー隊のおかげで助け出されたが、その際にどんな手段を以ってしても右手だけが抜けず止む無く切断せざるを得ず、長時間も川に浸かっていたため低体温症と重度の肺炎を引き起こしてしまう。傷はふさがり体力は取り戻したが、肺炎の後遺症として呼吸障害を抱えることになってしまった。

 そして、デーキャンプから一年後。

「菫! 菫お願い、しっかりして!」

「いやだよお! すみれお姉ちゃん死んじゃやだよお!」

「おい、何なんだよこれ……!?」

「なあ兄ちゃん、菫どうなってるんだ!?」

 姉のかえでと妹の菖蒲あやめ、そして近所で幼馴染の獅童鐘吾しどう しょうご雄吾ゆうごの兄弟、そして双方の両親が駆け付け、医師の必死の処置も家族の悲痛な願いも届かず、菫は帰らぬ人となった。


 だが死の間際、菫は叫ぶように願った。

「……死にたくないよ。もっと生きていたかったよ。お姉ちゃんや菖蒲、鐘吾くんや雄吾くんと、まだまだたくさんキャンプ楽しみたかった。クラスの友達とも一緒に、もっと遊びたかった。神様。もし神様が本当にいるのなら、どうかお願いを聞いてください。わたし、もっと生きていたいです」

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