第一話

 洞窟の奥深く・・・。

 金属音と怒声が鳴り響いていた・・・。


「おらっ!死に晒せ!!」

 スキンヘッドの巨漢が、大きな鉄斧を力一杯振り下ろすと、ドガンッッッ!!っと地面を破壊。

 大きな音と共に土煙が舞い上がり、周囲の視界を奪い去る。


「チョーット、気合いが入り過ぎちゃったな。」

 スキンヘッドの巨漢が、ニヤニヤしながら土煙が落ち着くのを待っていると、徐々に視界が良くなっていく・・・。


 やがて、巨漢の一撃で出来た穴が見えてくると、その直ぐ後ろに立つ人影に気が付くと、武闘家姿の女の子が、余裕の笑みを浮かべ仁王立ちをしていた。


 なっ!何だと!?

 俺の渾身の一撃を受けて、無傷だと・・・。

 怪我も服が乱れた様子もないなんて、どうなってやがる・・・。

 巨漢が驚き固まっていると、待ってましたとばかりに、女の子が威勢よく口を開く。

「こんなの!当たらなければなんてこと無いよ!これなら、ゴブリンの方がまだマシな攻撃をするわ!」


「ぐぬぬ・・・言わせておけば小娘め!邪視の盗賊団!頭目である俺様を虚仮にした代償は高いぞ!!」

 逆上した巨漢が、憤怒の形相で鉄斧を振り回し迫っていく。


「だ〜か〜ら!無駄よ無駄!!」

 巨漢の攻撃を、軽々しく躱しながら挑発を繰り返す。


「クソったれが!」

 全く当たらない攻撃と、小娘の挑発でイライラする巨漢は、怒りでスキンヘッドを赤く染めると、なりふり構わず鉄斧を振り回し追い掛ける。

 クソっ!クソっ!クソっ!

 あんな小娘、当たれば一撃いちころなのに・・・何で当たらねえ!!


 ブンッ・・・。

 ブウンッッ・・・。

 ブンブンブン!

 巨漢は、無闇矢鱈と鉄斧を振り回すが、くうを切り裂く音だけが、虚しく鳴っていた。

「くそっ!くそっ!くそっ!!」

 イライラしながら、当たらない攻撃を何度も繰り返す。


 次第に、単調な攻撃が多くなり、大振りな攻撃やスキが目立ち始めると、巨漢の体が上下に動き、肩で息をするようになっていた。

「クソっ!ちょこまかと羽虫の様に逃げ回りやがって・・・。当たりやがれ!!」

 巨漢の大振りの一撃が、女の子目掛けて振り下ろされたが、それも難なく躱す。

「攻撃が一撃必殺だとしても、当たらなければ、どうって事無い!」

 力を込めた一撃を躱され、勢い余った巨漢が、前のめりに態勢を崩す。

「うわっっとっとっと!?」

 転ばない様に踏ん張り、隙だらけとなった巨漢に、女の子がすかさず突進する。

「これで終わりよ!!」

 巨漢の頭部に飛び蹴りを入れると「ガアッッッ・・・」っと白目を向いて、膝から崩れ落ちる。

 巨漢を倒し周囲を見渡すと、洞窟の壁際に、盗賊達の亡骸が転がっていた。


「ふぅ・・・これでちょっとは、一息つけそうね・・・。」

 額から流れる汗を拭いながら呟くと、後ろから声が掛けられた。

「ミコ、まだまだ油断するなよ。この洞窟は、大きな盗賊団のアジトだから、まだまだ何が起こるか分からないぞ。」

 ミコと呼ばれた女の子は、緊張感を少し高めると、両拳りょうこぶしに力を込めて口を開いた。

「分かってます!でも、八雲さんの支援が凄すぎて、負ける気がしません!」

 後ろを振り向き、声がした方向へと拳を突き出す。

「僕の実力は、まだまだこんなものじゃ無いですよ!不完全燃焼です!!」

 ニコリと笑みを浮かべると、武道のかたを披露し始めたが、直ぐに八雲が止めた。

「そのやる気は買うが、まだ探索は終わってないぞ!盗賊団の全滅を確認するまでは気を抜くなよ!」

 八雲が言った瞬間、洞窟の奥の方から不気味な唸り声が聞こえてきた。


 ぐるるるるるる〜〜〜。

 唸り声は低く、洞窟内を反響しながら徐々に近づいて来る。

「次は魔獣か?」

 近づいてくる唸り声から、ここに向かって来るのは明白だった。


「ミコ、準備は良いか?」

 ミコの顔が引き締まり、態勢を立て直すと、何時でも戦えるように身構えた。

「僕は何時でも大丈夫だよ!」

 ミコが八雲に伝えると、八雲も魔獣を待ち構えるため身構える。すると、豚の頭を重たそうに垂らし、水牛の体と細い首を持つ、邪視のカトブレパスが姿を現した。


「そういえば、盗賊団の旗印にカトブレパスが入っていたが、まさか洞窟内に生息してるなんてな・・・。ミコ、絶対にあいつの目を見るなよ。」

「はい、分かってます!邪視の二つ名を持ち、目が合っただけで相手を石化する危険な化物ですね!」

「そうだ、だが逆に言うと。目を見なければ、動きが鈍いただの魔物だ。」

 八雲とミコは、視線の向きに注意しながら、カトブレパスとの間合いをはかっていた。しかし、カトブレパスが相手とは、武器を持たない武闘家のミコには、少し荷が重いかもな・・・。


「ミコ、ちょっと待ってろ!」

 ミコに指示を出すと、腰に下げた鬼刀きとう(手のひらサイズ)を手に、言葉を紡ぎ出した。


「雌雄一対の鬼刀きとう・・・酒吞童子よ・・・。彼の者に、加護を与え蹂躙せよ!鬼夜叉おにやしゃ!!。」


 八雲が叫ぶと、鬼刀きとう酒吞童子が一瞬だけ輝きを放ち、気が付くとミコの眼の前で浮遊していた。そして、鬼刀きとう酒吞童子が、再び眩い光を放つと、ミコの体に未知なる力が流れ込む・・・。


 八雲は、鬼刀きとう酒吞童子の加護、鬼夜叉が発動したのを確認すると叫んだ。

「ミコ!今のお前は、鬼の様に強い!暴れてこい!!」


 鬼夜叉は、攻撃力を飛躍的に上昇させる。武闘家のミコとは相性が良いはずだ。


「分かりました!!」

 ミコが叫んだのと同時に、カトブレパスの死角に回り込み、胴体に目掛けて正拳突きを繰り出した。


 ドスッッッ!!

 ミコのこぶしが胴体に突き刺さり、運良く心臓を潰した。

 数瞬後、カトブレパスが膝から崩れ落ち、大きな音を出しながら倒れていった。

「なっっっ!?」

 自分がやった事にビックリして、八雲に振り返った。

「な!?何がどうなったら、こうなるんですか!?」

 ビックリしているミコを横目に、倒れたカトブレパスを見ながら口を開いた。

鬼刀きとう酒吞童子の加護を、ミコに与えて攻撃力を上げただけだ。しかし、カトブレパスを一撃か、末恐ろしい女の子だな。」

「なっ!?人を化け物みたいに言わないで下さい!」

 頬を膨らませながら、抗議をする姿が可愛らしく映った。

「そもそも、八雲さんの加護の力でこうなったんじゃないですか!全部八雲さんが悪いんです!」

「ごめんごめん、言い方が悪かったな。」

 八雲が素直に謝ると、ミコの機嫌が少し戻った。


「それにしても、カトブレパスを綺麗に倒したな。上出来だミコ。」

 カトブレパスの素材‘’邪視の目‘’に、傷が入ってないのを確認した。他の部位は、食肉として流通される。


「今回のクエスト、盗賊団の討伐が達成できましたから、カトブレパスの素材は、八雲さんに全て譲りますよ。」

「そうか、それじゃ遠慮なく頂くとしよう。」

 アイテムボックスを使用すると、カトブレパスの巨体が一瞬で消えた。そして、その光景を見ていたミコが、羨ましそうに見ていた。


「やっぱり、いつ見てもアイテムボックスは羨ましいですね。食材は腐ることが無いし、沢山のアイテムが入る最高のスキルですよね。」

「そうだな、冒険前に食材や調理済みの料理を入れておけば、食うに困ることは無いからすごく重宝したな。後は、獲物や素材をそのまま入れても、新鮮さを保つ事が出来るのは、凄く助かったな。」

 ミコは、心底羨ましそうに口を開いた。

「食事の準備や獲物の解体が大変なのに、すごくすご〜〜〜く!羨ましいです!」

 可愛らしく頬を膨らませると、羨望の眼差しを八雲に向けた。

「俺もこのスキルのお陰で、一端いっぱしの冒険者に成れたと思うから感謝だな。」

 八雲が優しく笑い、ミコの頭に手を置くと優しく撫でた。

「ん・・・。」

 頭を撫でられている最中、少し気恥ずかしそうに下を向くミコだが、直ぐに気を取り直し顔を上げた。

「素材のお礼は料理が良いですね。これ程の素材を全て譲るんだから、お礼を催促しても良いですよね。」

 ミコが照れ隠しに言うと、八雲は笑顔で頷いた。

「了解!分かったよ。必ず美味しい料理をご馳走するから、期待しとけよ。」

 八雲がそう言うと、ミコは「絶対だからネ!」と、念を押すと、洞窟の更に奥へと向かい調査を開始した。


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体力が衰えた中年、今までの経験を活かして支援に回る。 わたかず @kazuriku1209

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