第255話 一階を見学しよう

 さて、娼館の話はまとまったことだし、孤児院の建設の計画を立てよう。


 先ずは目的の整理だ。


 短期的には治安や衛生面の向上、親が死んでも子供は生活できるという心理的な安心感を狙っている。


 長期的には、この俺を崇拝……とまでいかなくてもいいが、裏切ることのない人材の育成だ。


 小さい頃からジラール家に恩を感じるようになれば、忠誠心の高い人材が作れるだろう。


 そういったヤツらが一人でも増えれば、税金を上げても反乱を起こすようなことはない。


 私たちのためにお金を使ってくれたんだから応援しなきゃ。


 なんて都合の良い考えをしてくれることだろう。


 俺の計画は完璧だ。


 隙がないなッ!!


「娼館の方は私が適当な土地を見つけたいと思いますが、孤児院はどこに作られるので?」


「立派な建物が余っている場所があるだろ。あそこを使う」


 ジラール家の屋敷よりかは小さいが、数十人は住めるでかい家がある。


 都合の良いことに庭は広いし、建物の状態も非常に良い。


 さらには一等地にあるという好条件だ。


「そんなところございましたか?」


「俺が処刑した徴税人の家だよ」


 領民から税金を搾り取っていたこともあって裕福な家庭だった。


 財産は全て俺が没収しており、貴金属や高級家具は既に売却済みである。


 土地や建物も金に換えるつもりだったのだが、レッサー・アースドラゴンの素材や鉱石の売却益によって急ぐ必要がなくなり、ずっと放置していたのである。


「なるほど。確かに、あそこなら使えますね」


「時間と金を節約する良いアイデアだろ」


 しかもジラール家の持ち物というところが良い。


 金は一切使わずに売名までできる計画なのだッ!


「その通りでございますね」


 ケヴィンも納得したようなので、さっそく動くか。


 椅子から立ち上がると指示を出す。


「俺は現地を視察してくるから、残りの書類は適切に処理しろ」


「かしこまりました。ジャック様の判断が必要なものだけ、残しておきます」


 裁判は過去の判例をベースに、陳情については軽ければケヴィンに任せる。


 俺が空中都市にいっている間にも、問題なく対応していたので今回も大丈夫だろう。




 護衛のアデーレを連れてジラール家の紋章が入った馬車に乗り込み、徴税人から奪い取った家へ向かっていく。


 町の中では比較的裕福な層が住んでいるエリアに入ると、大きい庭のある一軒家に着いた。


 御者が門を開けてくれたので馬車ごと入っていく。


 移動に数分はかかるほど庭は広く、孤児達は思う存分運動できそうであった。


「ここが、子供達の住む場所になるんですね」


「その予定だ」


 庭の大きさに比べて家はさほど大きくない。


 何人ぐらい住めるだろうか。


 最低で二十人はいけると良いのだが。


「少しだけ羨ましいです」


 そういえばアデーレはずっと双剣の修行ばかりしていたな。


 兄弟子たちの関係も悪かったし、平和そうに見える孤児院に憧れているのかもしれない。


 かける声が見つからず、尻尾が力なく垂れている姿を見ながら到着するのを待っていると、ドアが開いた。


 先にアデーレが降りようとしたので手で制す。


「妻をエスコートするのが夫の役目、だろ?」


「……はいっ!」


 先に俺が外に出てから手を出すと、アデーレが軽く握って客車から飛び降りた。


 淑女っぽく振る舞って欲しかったのが、元気なところが良さなので指摘はしない。


「ここで待ってろ」


 御者に銀貨を一枚プレゼントしてから、二人で家のドアを開けて中に入る。


 ほこりっぽい空気が歓迎してくれた。


 長い間、人が訪れていなかった証拠である。


 エントランスは広くて五人ぐらいは滞在できそうだ。


 真っ赤な絨毯は敷かれているが調度品は一切ない。


 俺が売ってしまったのだ。


 奥には緩やかなカーブを描く階段があって、二階へ上がれるようになっていた。


「一階を見学しよう」


 エントランスを抜けるとリビングがあった。


 ここも広い。


 家具を置いたとしても 子供十人ぐらいはいけるな。


 続いてダイニング、キッチンを見て行くが広さは充分である。


 だからこそ掃除は大変そうだ。


 子供の人数が多ければ洗濯や飯を作る労力だってバカにならないだろう。


 孤児の面倒をみる女性とコック、あとは雑用担当を雇う必要がありそうだ。


「ジャック様の大切なお金を盗んだ人たちは、こんな大きい家に住んでいたんですね」


 怒りがこもっている。


 死してなお、徴税人たちは恨まれているのだ。


 本来であれば重税を課していたジーラル家が恨まれるはずなんだが、上手く責任転換できている。


「そいつらは俺が処刑した。もういない」


 アデーレの肩に手を乗せる。


「これからはジラール領のために活用しよう」


「わかりました」


 近づいたついでに軽く抱きしめてから離れ、二階に上がっていく。


 細い通路の左右にドアが六つあった。


 一番手前の部屋に入る。


 窓から庭が見下ろせるようになっていて陽差しもしっかりと入っている。


 二段ベッドを置けば四人、いや最大で六人は詰め込めそうだな。


 どの部屋もサイズに変わりないとしたら最大収容人数は三十六人になるだろう。


 最初の一歩としては充分な人数である。


 もし足りなくなったら庭に新しい家でも建ててやるか。

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