第256話 ジャック様ーーっ!
部屋の大きさは確認出来たので一階に戻ろうとしたのだが、天井に小さな穴が空いていることに気づいた。
屋根裏部屋があるかもしれないな。
ただの思いつきだが、調べてみたい欲求がわき上がってくる。
手を伸ばしても天井には届かないので、アデーレに協力してもらうか。
しゃがんでから声をかける。
「俺の上に乗ってくれ」
「そんな趣味が……」
戸惑いながらアデーレは俺の頭に足を乗せた。
何度も踏みつけてくる。
力は抑えられているので痛くはないのだが、見た目は非常によろしくない。
「違う。俺を踏めという意味ではない。肩に乗って天井の裏を見てほしいんだよ」
「あっ!! そいうことだったんですね」
勘違いに気づいて恥ずかしそうにしながら、頭を踏みつけていた足をおろした。
ちゃんと目的を伝えなかった俺が悪いので気にはしてないのだが、モジモジと指を動かしていて止まっているのは困る。
「早く乗ってくれ」
「はいっ!」
慌てたアデーレが俺の肩に座った。
太ももが頬に当たる。
体温が伝わってきて幸福感が湧き上がってくるぞ。
こういうプレイも良いなと内心で思いつつ立ち上がった。
「届くか?」
「大丈夫そうですっ」
小さい手を広げたアデーレが天井を押すと、小さい穴が空いている板を持ち上げた。
横にずらすと奥が見える。
僅かに光が入っているようで、子供ぐらいなら入れる高さがあるとわかった。
「入れるか?」
「やってみますね」
空いた場所に手を入れて、アデーレは軽々と天井裏に入る。
背が低いこともあって体は邪魔にならないようで、すぐ奥へ行ってしまった。
俺がいる位置からでは何も見えない。
仕方がないのでしばらく待っていると、重い物を引きずる様な音が聞こえてきたぞ。
まさか死体があったんじゃないだろうな。
身元を知ってそうなヤツらは処刑してしまったから、遺族に返すなんてできそうにない。
不要な物を発見してしまったのであれば極秘裏に処分する方向で動こう。
「ジャック様ーーっ!」
見上げるとアデーレが天井の穴からの俺を見ていた。
「何があった?」
「これです」
アデーレの手には黄金に輝く硬貨があった。
金貨だ! 金だっ! 金が見つかったぞ!!
徴税人が溜め込んだ隠し資産だ。
金貨一枚、二枚ということはないはず。
高まる気持ちを抑えながらアデーレに質問をする。
「どのぐらいあった?」
「いっぱいです!」
朗報だ。
しばらくは、孤児院の運営予算に頭を悩ませなくて済むぞ。
「確認したい。俺も上に行く」
手を伸ばすとアデーレが掴んでくれた。
ジャンプするのと同時に引っ張り上げてもらい、天井裏に入った。
ほこり臭くて空気は淀んでいる。
袖で鼻と口を押さえながら周囲を見ると、金貨がたっぷり入っていそうな革袋が三つもあった。
しかもそれだけじゃない。
奥には瓶に入った緑色の液体が並んでいる。
これはポーションだった。
等級までは分からないが、一番低くても非常に高価なので歓迎である。
売ってもいいいし、私兵にも使える非常に便利な道具なのだ。
「お宝発見だな」
悪い笑顔をしている自覚はあるが止められない。
「これはどうするんですか?」
「孤児院の運営資金として使う」
「さすがジャック様です! すごく優しい!」
善意でやっていると勘違いしていそうな発言だ。
従順な領民を生み出すためにやっていることで、実際は全て俺のためなんて言ったら、どう思うだろうか。
やはりショックを受けてしまうかななんて思いつつ、アデーレに話しかける。
「視察して分かったが、ここには物がなさすぎる。二段ベッドの他に寝具、あとはダイニングテーブルや椅子、キッチン回りの道具は必要だな」
「木剣はどうですか? ジャック様が許してくれるなら、私が稽古をつけたいな、なんて思っていますっ!」
悪くないアイデアだ。
側室が面倒を見ている孤児院となれば、俺が何もしなくてもジラール家の評判は、かなり上がる。
さらに孤児院の周囲に住んでいる裕福層だって、表だって批判するのは難しくなるし、邪魔はできないだろう。
私兵の訓練回数を減らして孤児院の仕事をさせようと決めた。
「わがままな子供ばかりだと思うが大丈夫か?」
「任せてください。こう見えても子供の扱いには慣れているんです」
やや幼い見た目をしているから、年上っぽく見られたくて背伸びしているように感じるが、言い切ったところから自信はあるんだろう。
教え方は上手いのだから、技術や知識面では心配していない。
やらせてみるのもいいだろう。
「わかった。アデーレは体育教師として任命しよう!」
「体育ってなんですか?」
「剣術だけじゃなく、筋トレやランニングといった運動全般を教える教師という意味だな」
「そんな大役、私でいいのでしょうか……」
さっきまでの自信はどこにいったんだよ。
「だったら俺が断言してやる」
目を合わせて顔を近づける。
逃げようとしても無駄だ。
肩を手で押さえつけた。
「アデーレ、お前なら良き教師になれる。安心しろ」
「ジャック様っっ!!」
感動して目が潤んでいる。
これで少しは自信を持って頑張ってくれると良いのだが。
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