第221話 小規模な組織相手に過剰すぎないか?

「それで、これからどうするの?」

 

 セラビミアに首輪をつけて魔法を封印したことで、俺の目標は達成された。


 次は空中都市を掌握し、理想の地として環境を整えていくのもありだな。


 ジラール領が滅びそうになった時の逃げ道としても使えるし、天候がコントロールできるなら、作物を育てて地上で売ることもできるだろう。


 だが、そんな守りの姿勢でいいのか? という疑問も浮かぶ。


 強大な力が手に入ったのであれば、攻めにいってもいいだろう。


 例えば空中都市を使って、気に入らない貴族の屋敷を焼き払うとか。


 俺が持ち主だと知っているのはセラビミアだけなのだから、彼女さえ幽閉しておけば犯人は分からない。


 やりたい放題だ。


 それこそ『悪徳貴族の生存戦略』で活躍したジャック・ジラールのようにな。


「悪い顔しているね。私の好みだよ」


 おっといけない。


 どうやら顔に出てしまっていたようだ。


「うっさい。お前のせいで、生まれつき顔つきが悪いんだよ」


 生みの親であるセラビミアに文句を言いつつ、話を続ける。


「とりあえず空中都市のすべてを掌握したい。コントロールルームみたいな場所はないのか?」


「それなら、制御センターがあるよ」


 やはりあるか。


 戦艦などと同じく、どこかで中央管理していると思っていた。


 制御センターを抑えてしまえば、空中都市は思うがままに操れるぞ。


「案内してあげる」


 首輪をつけたままセラビミアが部屋から出て行った。


 俺は棚に残っていた手錠を拝借してから、ついていく。


 建物を出て市街地を歩いていると、どんどん入り口から離れて行って、周囲の建物が減っていった。


 ビジネス街、住宅街と続いて、次は周囲に何もない平原か。


 レジャーシートを敷いてご飯を食べたら楽しそうだ。


 なんて思えるほど、のどかな光景である。


 そんな中に、ぽつんと三階建ての施設があった。


 窓はなく屋上には砲台のようなものが見える。


 敵の襲撃を警戒しておかれているんだろうが、その敵とは誰なんだろうな。


 空飛ぶ魔物か、それとも……。


「テロを恐れて警戒していたんだな?」


「正解。あの砲台は、制御センターを狙ってきたテロ組織向けの設備だね」


「小規模な組織相手に過剰すぎないか?」


「魔物をけしかけてくることもあるからね。これぐらいは必要だったんだよ」


 続編には魔物を操るテイマーみたいなのがいるのか?


 ったく、物騒な世の中だな。


「空中都市は治安が悪かったんだな」


「滅亡の原因となるぐらいには」


 他国に逃げられない市民、制御センターを抑えた支配者、過去、何が起こったのかなんとなく想像ができてしまった。


 閉鎖された空間で圧倒的な強者がやることなんて、パターンは決まっているからな。


 圧政でもしたんだろうよ。


 その結果、テロを恐れて衛兵隊がいる場所は要塞のようになり、制御センターには砲台がある。


 周囲に建物がないのも、接近されたのをすぐに察知するためだと思えば、対応にも納得だ。


 利便性より安全性を取ったんだからな。


「ふーん。当時の支配層は無能だったんだな」


 俺の両親みたいに、死ぬほど搾り取ってはダメなのだ。


 生きることには絶望しないギリギリの値を見分け、税を搾り取らなければいけない。


 じゃないと領地が衰退するか、空中都市のようにテロや革命などといった暴力的な手段で、破滅するしか道がなくなる。


 生かさず殺さず、贅沢な暮らしをする。


 なんで世の権力者は、そんな簡単なことができないのか不思議だ。


「そうだね」


 セラビミアは立ち止まって返事をすると、じーっと俺を見ている。


 またこの先は、ジラール家の血筋しか入れない場所なのか?


 狙いはわからないが、目的地は見えているんだから一人でも行ける。


 俺は歩き出してセラビミアを追い抜き、制御センターに近づく。


 ウィィィーンと、何かの動く音が聞こえた。


「何が起こった?」


 後ろを向いてセラビミアを見る。


 悪魔の様な笑みを浮かべており、背筋から嫌な汗が浮き出た。


 魔法は使えないはずなのに、どうしてそんな顔ができるんだよ。


「早く動かないと大変なことになるよ」


「それって――」


 背後から濃縮された魔力を感じた。


 制御センターを見ると砲台がこっちを向いていて、先端が光っている。


「機能停止しているんじゃないのかよッ!」


「誰もそんなこと言ってない。未だに、無許可に近づく不届き者を処分する機能は健在だよ」


「そういう大事なことは聞かれる前に言え!」


 文句を言いながら逃げ出そうとする。


「射程は空中都市すべて。逃げ場はないよ」


 ピタリと足が止まった。


 周囲に建物はないので隠れる場所はなく、逃げようがない。


 離れても意味は無いのであればやることは一つ。


 踵を返して制御センターに向かって走り出す。


 後ろからセラビミアの付いてくる足音が聞こえた。


「いい判断だね! さすが私が見込んだジラール男爵!」


 神様気分で試練を与えているつもりか!?


 クソッタレが!


「何度、俺をハメれば気が済むんだよ!」


「私のものになるまで、かな」


「お断りだ!」


 嫌われたくないと言いつつ、やっていることは逆のことだ。


 聖職者が神の教えを説いている裏で、孤児に手を出しているようなものだ。


 もしくは、魔女だと言って虐殺しているとか。


 何が言いたいかというと、セラビミアとは仲良くできないと言うことだな!

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