第222話 遊ん……で……

 魔力を全解放して身体能力を強化、平野を全力で走っている。


 制御センターが近づいてきたのと同時に、砲台からウィィィイインと不快な音も大きくなる。


 時間がない。


 もうすぐ砲台から何かが放たれるだろう。


 防御手段のない俺がまともに受けてしまえば、死は避けられない。


 打開策を教えてくれと思いつつ、セラビミアを見る。


「砲台からは高出力の氷魔法が放たれるから! 防御不可能だよ! 気をつけてね!」


 どうでもいい事実を述べただけかよ!


 魔法が使えない今、セラビミアだって死ぬだろうに。


 何でそんな楽しんでいられる。


「ジラール男爵が凍りづけになる姿を見たいなー! でも生き残って、私と添い遂げるのも悪くない!」


 俺の破滅を願いつつ、でも好かれたい、助けたい、なんて同時に思う女だ。


 理解しようと思うだけ無駄だろうな。


 制御センターとの距離が百メートルを切った。


 地面から壁が生えてきた。


 高さが一メートルぐらいになったタイミングで魔法を使う。


『シャドウ・ウォーク』


 壁で作られた影に移動した。


 防御システムが俺を邪魔しようとしたようだが、逆に走っているよりも速く距離を詰められた。


 走りながら後ろをチラリと見る。


 空を飛ぶように跳躍しているセラビミアがいた。


 首輪のおかげで、まともに身体能力は強化できない状態なのだが、高さ十メートル以上はある壁を飛び越えるとは。


 素の能力が化け物級だな。


 人という種の限界を超えていて、改めてまともに戦って勝てる相手じゃないなと、理解させられてしまった。


「次はアイアンゴーレムが出てくるよ!」


 慌てて前を見ると、セラビミアが言ったとおりアイアンゴーレムがいた。


 地上で魔方陣を守っていたヤツと同タイプらしく、見た目が同じだ。


 四角形を組み合わせて作ったフォルムで、錆が浮いている。


 大人しく機能停止してれば良かったものを。


「シンニュシャ…………ハイ……ジョ」


 ジラール家の血を引いているのだが、なぜか俺を敵として認識しているようだ。


 見た目は同じだが、中身は地上のタイプと全く違うのだろう。


 頑丈そうに見えるので戦うのは避けたい。


 通り抜けよう。


 足は止めずに走り続ける。


 アイアンゴーレムが立ちふさがり、拳を振り下ろしてきた。


 前に飛ぶようにして回避し、着地と同時に前転しながら立ち上がる。


 すぐに走ろうと思ったのだが足は止まってしまう。


「マジかよ」


 アイアンゴーレムがくっついて壁になっていたのだ。


 隙間がないので通り抜けは不可能である。


 回り込んで避けるしかない。


 走り出そうとしたら、アイアンゴーレム顔から光線が放たれたので、地面を転がりながら避ける。


 じゅわっと、音を立てて地面が焼けていた。


 砲台からでる不快な音が一際大きくなり、ついに周囲を凍らせる光を放った。


 目の前のアイアンゴーレムに当たると周囲を凍り付かせ、粉々に砕き、貫通した冷凍光線は地面にぶつかる。


 わずかに稼げた時間を使って走り出していたので、俺には当たらなかった。


 セラビミアの考えた防衛機能がこの程度で終わるはずがなく、冷凍光線を出したまま俺を追跡してくる。


 魔法を使って逃げるしかない。


 近くにはアイアンゴーレムの残骸はあるが、場所が近いので移動しても無駄に魔力を消費するだけだ。


 キメラスケルトン戦でやったように、セラビミアを盾にしても無駄だろう。


 まとめて凍らされて終わるだけだ。


 やはり、制御センターに近づくしかないな。


 運が悪いことに建物の影は俺から見えない位置にあるので、別の影を探さなければならないのだが……丁度良いのがあったな!


 必殺の攻撃をされているからこそ、チャンスが生まれた。


 息が切れて集中力が乱れかけているので、足を止めて意識を集中させる。


 セラビミアが抱きついてきたものの、振りほどく時間なんてない。


 目の前に破滅の光線が近づいているからな。


『シャドウ・ウォーク』


 自分の影にセラビミアを連れて沈み、冷凍光線の影から浮かび上がる。


 目の前に制御センターの建物があった。


 狙っていたとおり攻撃はこない。


 砲台の射程は空中都市全域かもしれないが、真下は狙えないのだ。


 敵を見失ったことで冷凍光線は止まり、草原は静けさを取り戻している。


「今度は人型の敵が、建物から大量に出てくるってことはないよな?」


 抱きついたままのセラビミアを引き離しながら聞いてみた。


 こいつのことだから、生き残ったと安堵した瞬間に別の罠を仕掛けてくる、なんてこともやってきそうだからな。


 油断できない。


「教えない……ぐっ」


 アホなことを言ったので、首を掴んで持ち上げた。


「お前の遊びに付き合うつもりはない。死にたくなければ答えろ」


「いわ…………な……い」


「なぜだ? 命をかけるほどの情報があるのか?」


「遊ん……で……私…………と」


 セラビミアの顔が青白くなり、口からよだれが出る。


 手や足はだらりとぶら下がっていて、抵抗するそぶりは見せない。


 俺の判断に全てを委ねる。


 言葉にはしないが、そんな強い意志を感じた。


「そんなに、この世界で遊んでもらいたいのかよ」


 自分の命より、この世界で俺がどんな苦労をするのか、驚くのか、喜ぶのか、そういった姿を見たいなんて。


 まったくもって理解できない感情である。

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