第212話 この世界を荒らして人間の本質を伝えるつもりか?

「それがお前のやりたいことなのか」


「うん。そうだね。邪魔する?」


 空中都市に眠るらしい、数千の魔物を使えばセラビミアが倒せるかもしれない。


 魔物側が負けたとしても空中都市の兵力がなくなるだけなので、ヴァルツァ王国を滅ぼす計画は遅れるだろう。


 どちらにしろ悪い結果にはならない。


 だが、そこまでして国を守りたいか? と問われれば、正直なところ、俺の領地さえ被害を受けなければ気にしない。


 国への忠誠心なんてないからな。


 守るべきものは全てジラール領にあるのだから、セラビミアの好きにしろなんて返事していいのかもしれない。


 しかし、彼女はアデーレやユリアンヌを狙っている。


 その一点だけで、俺の周りにいていい存在ではない。


「ああ。邪魔をする」


 確固たる意思を持って言い切った。


 お前の計画通りに進めさせないと。


「そう言うと思ったよ」


「だったらなぜ、遺跡の正体を話した? 隠しておけば俺が邪魔できなかったかもしれないぞ」


「そうだねー。もしかしたら止めて欲しかったのかも? それとも嫌われたくなかったからかな?」


 冗談っぽく言ったセラビミアは、一人で先に行ってしまった。


 意味ありげなことを言って同情を誘う作戦なのだろうが、俺は騙されないぞ。


 今すぐにでも斬りかかってやりたいところではあるが、背後から襲っても反撃されて終わるだけだ。


 焦らずチャンスが来るのを待つしかない。


 目的地はセラビミアが知っているだろうから、黙って後を付いてく。


 丘を降りて遺跡に近づくと、朽ちかけた門の前に立った。


 重量のあるものがぶつかって、破壊されたんだろう。


 分厚い鉄で作られた門は地面に転がっていて、彫り込まれている毒蛇の紋章ごと形は歪んでいる。


「この遺跡が空中に浮かぶのか?」


「違うよ。これは地上に住む人向けの場所。空中都市は別の所にあるから」


 独り言に返事があるとは思わなかった。


 本当に何も隠すつもりはないようである。


「こっちだよ」


 またセラビミアが歩き出したので、俺も続く。


 遺跡の中は外で見ていたより崩壊が進んでいて、壁がのこっている建物すらほとんどない状況だ。


 病が流行って遺跡に住んでいた人たちが死んだと聞いたが、それだけでは説明が付かない。


「風化したと説明するには壊れすぎているな。何が起こったんだ?」


「住民が死んだ後に略奪があったんだよ。近隣の町から派遣された人たちが争い、富を奪い合ったんだ」


 持ち主がいないのだから有効利用してやる、なんて思いながら、遺品を漁っていたことだろう。


 なんとも気分が悪くなる話だな。


「人間の本質は世界が変わっても同じだよね。それなのに、汚い部分を隠そうとしていたのが気に入らなかった」


 脈絡のない話ではあるが、セラビミアの考えを知る機会だし、付き合ってやるか。


「だから、ゲームを作ったのか?」


 セラビミアは振り返り、手を後ろに回す。


 やや前傾姿勢になりながら俺を見た。


「そうだよ。自分の欲望のために他人の物を奪う。それが人間の本質だって、伝えたかったんだ」


 ゲームをプレイしていて、制作者は性癖が歪んでいるなと思っていたが、思想までとは思わなかった。


 やはりセラビミアは何かがズレている。


 価値観が全くあわない。


「この世界を荒らして人間の本質を伝えるつもりか?」


「転生した当初はそんなことを考えたときもあったけど、私が手を出すまでもなく、奪い合う世界になっていたから静観しようと思っていたんだ。でもね、私の設定を狂わしている存在がいると気づいて、動くことにしたんだ」


 目を細めて俺を睨みつけると、セラビミアは話を続ける。


「最初は、不審な動きをするジラール男爵が犯人だと思っていたよ」


 ジャックはゲームの主人公だったから、セラビミアは常に監視していたはず。


 両親を昏睡させたあたりから、目を付けられていたんだろうな。


 だから最初から敵対するような行動をしていたのか。


「でもね、すぐに違うと分かったから、仲間になってくれないかなって誘ったんだ」


「それにしては、強引すぎなかったか?」


「欲しいものは、どんな方法を使っても手に入れたいから。仕方がないよね」


「そんな言葉だけで済むわけないだろ」


 だからといって、俺の大切なものを奪うと宣言しているヤツと、仲良くできるはずがない。


 セラビミアは選択を間違えたが故に、俺を手に入れることは永遠に訪れないのだ。


 これ以上の会話は不毛なので、そろそろ打ち切るか。

 

「お前の考えは分かった。案内を再開してくれ」


「はーい」


 途中で話をぶった切ったのに、文句一つ言わない。


 何を考えているかわからないと不気味に思いつつ、また一緒に歩き出す。


 遺跡の中は、どこも瓦礫の山ばかり。


 たまに人骨を見つけるが、風化していてほとんど原型を止めていない。


 土と一体化しているようにも見えた。


「「…………」」


 話すことなんてないので、お互いに無言である。


 周囲も静かだから、風の吹く音ぐらいしか聞こえない。


 時間にして三時間ほどだろうか。


 そのぐらい歩くと、遺跡の中心につく。


 小さいながらも城があった。


 破壊なんてされてなく、原型が残っていて、かなり頑丈に作られていたことが分かる。


 これなら中にあるものも無事だろう。


「ここは初代ジラールが住んでいた場所だよ。空中都市への入り口につながっている」


「入ろう」


 さっさと空中都市とやらに行きたいので即答した。


「やる気があって良いね。ご案内いたしま~す!」


 上機嫌なセラビミアが城に入っていく。


 俺も付いていくことにした。






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