第213話 ヤバかったら手伝えよ

 城内は意外と綺麗だった。


 誰も訪れていなかったのでホコリ臭いが、破壊された形跡はなくて原型を止めている。


 セラビミアが光る球を出現させたので、周囲は明るく廊下の奥まで見通せる。


 生物の気配はなく、死体は見えない。


「この城は略奪にあわなかったのか?」


「初代ジラールの家臣に結界魔法を使える人がいてね。血族と同行者以外は入れないようになっているんだよ」


 そんな優秀な人材がいたのか。


 なんて驚いたが、空中都市を持っているのであれば、この程度は普通かと思い直す。


 二代目以降が無能じゃなかったら、今みたいに落ちぶれてはいなかっただろうか。


「ちょと、寄り道するよ」


 セラビミアは目的地にまっすぐ進むつもりはないようだ。


 自分が作ったマップを自慢するような感覚で、食堂や執務室、初代の夫婦が過ごしていた寝室なんて場所も案内された。


 こんな場所まで再現されている、なんて子供のようにはしゃいでいる姿だけ見れば、かわいらしなんて表しても良いだろう。


 一通り城内を案内された後に、地下に進む階段を歩くことになった。


 進むごとに気温は下がっている気がする。


 空気も淀んでいて、どうしても不気味な雰囲気を感じてしまう。


「この先は、牢獄になっているんだ。もしかしたら死体が残っているかもね」


 笑いながら楽しそうに言いやがって。


「アンデッド化していたら面倒だな」


「お、ジラール男爵にしては鋭いね」


「俺にしてはって余計なことを……って、まさか?」


「すぐ空中都市にたどり着いたら面白くないでしょ? ちゃんとボスを用意しているから、楽しみにしててね」


 単調な探索ばかりだとゲームは盛り上がらない。


 プレイヤーを飽きさせない仕組みとして、セラビミアはボスを用意したのだろうが、現実になると迷惑でしかないな。


 順調に進んでいたからこそ、ボスとの戦いは面倒だと感じる。


「もちろん、手伝ってくれるんだろうな?」


「うーん。ジラール男爵だけで戦って欲しいな。ほら、制作者として、遊んでくれている姿をみたいじゃん?」


 この世界の人たちをキャラクターとして見ているからこそ、先ほどの発言につながるのもわかる。


 ゲーム制作者としての非常に強いこだわりを感じるし、俺がいくら言っても従わないだろう。


 魔力を貯蔵する臓器を鍛えるチャンスだと割り切って、今回は戦うしかないか。


「ピンチになったら手伝えよ」


「もちろん!」


 子供のように純粋な笑顔を向けられてしまい、気が抜けてしまった。


 スキップしそうなほど軽い足取りでセラビミアが階段を降りていき、最下層についた。


 左右には風化しかけた骨やボロボロの布だけが残っている牢獄がいくつもあり、真ん中の通路を進んでいく。


 腐臭などは感じない。


 死んだばかりだったらウジが湧いていただろうし、骨だけになってくれてて助かった。


「ついたよ」


 通路の奥にデカい扉があった。


 文字が彫られていて、消えかけているが何とか読める。


「んー。死体……研究……なんとか、と書いてあるな」


「正確には死体合成研究所だよ。殺した魔物の素材を合体させて、アンデッドにする研究をしていたんだ!」


「なんて、おぞましい研究をしているんだよッ!」


「戦争が始まっても国民に被害がでない、画期的な方法なんだけどなー」


 突っ込んだら唇をすぼめて、少しだけ拗ねたような顔をした。


 ジャックのご先祖は、一線を軽々しく越えてしまうタイプだったのか。


 俺の両親も領地が滅びるぐらいの領民から搾り取っていたし、その性質はちゃんと引き継がれている。


「生命の冒涜だけどな」


「道徳なんて、守っている人が馬鹿を見るだけ。邪魔でしかない」


 歪んでいるな。


 前世で相当、嫌な経験をしてきたんだろう。


 ルール無用の世界になってしまえば、暴力が支配する世界になるだろうし、誰も信じられなくなるのに。


 って、周囲の人間を疑いながら生きている俺が、言えたことではないか。


「扉は私が開くから、ジラール男爵は一人で入ってね」


「罠とかあるのか?」


「ないよ。ボスはキメラスケルトン。頑張ってね」


 名前からして骨しかなさそうだな。


 血が流れないから、ヴァンパイア・ソードでの回復は望めない。


 攻撃に注意する必要はあるだろう。


「ヤバかったら手伝えよ」


「わかってるって。いってらっしゃい~」


 軽く笑われてから扉が開いた。


 ヴァンパイア・ソードを抜いて、ゆっくりと入る。


 部屋は真っ暗だったのだが、壁につけられている燭台に火が付き、周囲が明るくなる。


 部屋の中心には骨の山があった。


 カタカタと音を鳴らして動こうとする。


 遠距離系の魔法が使えるのであれば攻撃してみただろうが、残念ながら接近戦しかできない。


 敵の行動が読めないなか、近づきたくはないので様子を見ることにする。


 骨はガチャガチャと音を立てて組み上がっていく。


 どうやらベースは、四足の魔物のようだ。


 頭は二つある。


 両方とも頭に角の生えた犬みたいな頭蓋骨だ。


 体には羽が生えていて、尻尾は蛇……じゃないな、あれは亜竜系の頭蓋骨が先端に付いている。


 少なくとも四匹の魔物を組み合わせているようだ。


 まさに生物を冒涜した存在だな。

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