第211話 爵位と土地をもらった訳か

 物騒な宣言をされた食事はすぐに終わり、交代しながら見張りを建てることにした。


 寝込みを襲われるかもと警戒してたのだが、何事もなく翌朝なる。


 昨日と同じように二人で森の中を歩いて行く。


 昼間もそうだったんだが、動物は見かけても魔物の姿はない。


 普通では考えられない出来事だ。


 勇者の力を恐れて、近づいてこないのだろうか。


 半日ほど鬱蒼と茂る木々の中を進んでいくと、ようやく遺跡……というには小さすぎる、レンガ造りの一軒家が見えた。


 苔に覆われて自然に返る寸前である。


「ここが遺跡の入り口」


 家のドアの前に立つと、振り返ったセラビミアが言った。


 中に入ることはなく横に移動して道を譲る。


「ここから先はジラール男爵が先頭だよ」


「どうしてだ?」


「鍵を開けられるのは初代ジラールの血を引く人だけだから」


 両親を殺しておいて正解だったな。


 あれが生きていたら俺の代わりに連れてきたかもしれん。


 いや、キャラクターと見下している現地人に頼るなんて、セラビミアのプライドが許さないか。


 今なら分かるが、あの両親が生きていてもセラビミアは、俺を利用するために動いたはず。


「罠はないだろうな?」


「子孫に罠を残すご先祖様って、嫌じゃない?」


 軽く笑われてしまったが、ヴァンパイア・ソードという実例があるから油断はできない。


 セラビミアの性癖が強く反映され、勇者を筆頭にクズ男ばかりがいる世界なのだから、初代の人格だって推して知るべしだ。


「まぁな。そんな祖先はお断りだ」


 返事をしつつ普段よりも慎重に歩き、ドアの前に立つ。


 近づいてわかったのだが、ドア全体に毒蛇の模様が描かれていた。


 長い年月によってインクは薄くなり、消えかけているようだ。


 取り合えずドアノブを触ってみる。


「光ったな」


 毒蛇の模様が明るくなると、ガチャリと解錠される音がなった。


 ドアノブを回して中に入る。


 部屋は暗かったのだが、光の球が突如として出現。


 明るくなった。


 セラビミアが照明の魔法を使ったのだろう。


「監禁部屋のようだな」


 家具や絨毯、窓すらなかった。


 調理するような場所もないため、どう考えてもここで生活できるとは思えない。


「ここは入り口でしかないからね。早く中に入ってよ」


「そうすると、何が起こる?」


「隠れ里だった場所に転移できるよ」


「わかった」


 部屋の中心にまで歩くと、床に魔方陣が出現した。


 意味なんてわかるはずがない。


 周囲の景色が変わるのを待っていると、セラビミアが抱き付いてきた。


「離れろよ」


「だめー。こうしないと一緒に転移できないから」


 ちっ。


 まだセラビミアの案内が必要なので、突き放すようなことはせず、心の中で舌打ちをして黙ることにした。


 光によって視界が真っ白になって、すぐ元に戻る。


 景色が変わっていて丘の上に立っていた。


 目の前には朽ちかけた建物が多数あり、魔物の脅威から守っていただろう外壁は根元の部分しか残っていない。


 大昔は繁栄した都市があったであろう遺跡。


 ここがセラビミアの目的地のようだ。


「昔は誰が住んでいた?」


「初代ジラールたちだね」


 やはりそうか。


 ジラール家の子孫しか起動させられない転移魔方陣からして、予想でできていた。


「原因不明の病によって都市が壊滅。初代ジラールは今のジャック君が治めている土地に移ったんだよ」


「当時の国王は、なぜよそ者を男爵にしたんだ?」


 転移前の森より気温が低いので、ヴァルツァ王国から離れた場所にあるだろう。


 初代ジラールは国を移動して男爵になったわけだ。


 貴族へ成り上がるに相応しい手柄があったはずである。


「当時のヴァルツァ王国は、とある魔物によって壊滅しかけていたんだよ」


 セラビミアはヴァンパイア・ソードを指さしながら、言った。


「その魔物とは何だ?」


「ヴァンパイア。その剣に憑依して今も生きているよ」


 今までのできごとから予想はできていたが、ゲームの制作者に言われてようやく確信を持った。


 この剣は生きていたのだ。


 ずっと墓の中で眠っていたというのに、よく正気を保っていられるな。


 俺なら自我が崩壊していただろう。


「それでヴァンパイアを倒した見返りに、爵位と土地をもらった訳か」


「うん。彼女が住んでいた魔の土地だったけどね」


 救国の英雄とでも言える初代ジラールに対して、酷い仕打ちだな。


 どうせセラビミアのことだから、気分が悪くなりそうな設定やストーリーがあって、冷遇されたのだろう。


「事情はわかった。で、遺跡に何が眠っているんだ?」


 歴史の授業は、この程度で良い。


 重要なのはセラビミアが欲しがるほどのものが、この土地にあるという事実である。


 さっさと圧倒的な力を手に入れて、理不尽な設定やストーリーを破壊してやる。


「空中都市。この遺跡を守る為に数千の魔物が冬眠しているよ」


 強力な武器があると思っていたのだが、俺の考えは規模が小さかったようだ。


 まさか都市が手に入るとは思わなかったぞ。


 名前の通り空に浮かんでいるだろう。


 数千の魔物が自由に使えるのであれば、国を落とすことすらできる。


「お前はそれを手に入れてどうするつもりだ?」


「私が考えた大切な設定を暴走させているレックスを殺してから、ヴァルツァ王国をジラール男爵にプレゼントでもしようかな。その後は、私好みの完璧な世界になるよう、導いてあげる」


 とんでもないことを、楽しそうに話しやがった。


 神だと錯覚しているセラビミアは、当然のように世界をいじれる権利があるとでも思っているようだ。


 大切なものを奪うと言っていたし、早く対処しなければ今以上に手が付けられなくなるぞ。


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