第194話 血を吸わせろ

 五人の傭兵が襲ってきた。


 全員が、2.5mぐらいはる槍を持っていて、ヴァンパイア・ソードが届かないところから攻撃しようとしている。


 相手の動きをじっくりと見て、穂先が体へ接触する瞬間に魔法を使う。


『シャドウ・ウォーク』


 自分の影に沈んでから、傭兵の背後に浮かび上がる。


「後ろだ! 後ろにいるぞ!!」


 仲間の声で振り返ろうとした傭兵の首を切り落とした。


 残りは四人。


 槍が長いせいで振り返るのに時間がかかっている。


 一人、二人、三人と、たいした抵抗もなく斬り捨てていく。


「助けてくれッ!!」


 残りの一人は槍を捨てて逃げ出そうとする。


 追撃しようと思って足を前に出したが、後ろから近づく音が聞こえて中断。


 振り返ると、今度は十人ぐらいの傭兵がこっちに向かっていた。


 魔力の残量的にこれが最後だろうと思いつつ、魔法を使う。


『シャドウ・バインド』


 近寄ってくる十人の足を絡め取ると、数人が転倒する。


 立っているヤツらも足が止まったので、駆け出すと斬り捨てていく。


 拘束を抜けた傭兵から攻撃を受けるが、致命傷を受けないことだけに注力して、ヴァンパイア・ソードを振りまくる。


 血を吸い取りながら傷、そして体力までも回復していくので、何時間でも戦えそうだ。


 さらに生き残っている傭兵たちも参戦してきて、もう誰が怪我をしているのかわからないぐらい血が飛び散る乱戦となった。


「化け物が! 死ね!!」


 隙を狙われて腹に剣が突き刺さってしまったので、蹴りを放って吹き飛ばすと、近くに転がっている死体から血を吸い上げてすぐに回復する。


 また傭兵が近づいてきたので迎え撃とうとすると、残像が見えそうなほどの速度で走るアデーレが、首を斬り落とした。


 続いてユリアンヌが槍で傭兵をまとめて二人串刺しにする。


「まだ余裕だったぞ?」


 俺の強さを私兵、そして領民たちに刻み込むため、一人で戦う計画を伝えていたはずだ。


 死にそうになるまで手出しするなと厳命していたんだがな。


「これ以上、旦那様が傷つくところは見ていられません!」


「私もです! ジャック様に反抗する蛮族を斬り捨てます!」


 殺意の高い嫁たちだな……負けてられん!


「ヨン卿! お前たちは見ていろ!」


 ヨンやルートヴィヒも参戦しそうだったので、声を上げて止めた。


 計画は狂ってしまったが、俺ではなくジラール家の恐ろしさを刻み込んでやろう。


 アデーレが効率よく一人一人首を刈り取っていき、ユリアンヌが槍で複数人をまとめてなぎ払い、突き刺していく。


 出番の減った俺は適当に傭兵を斬りながら、後方で怯えている傭兵団長の前まで歩いた。


「どうだ。ジラール領は良いところだろ。歓迎会は楽しんでくれているかね?」


「ふざけるなぁぁぁあああ!!」


 せっかく穏やかに話しかけてやったというのに、傭兵団長は逆上しやがった。


 剣を上段に構えて振り下ろしてきたから、右腕を上げてわざと斬らせる。


 ガントレッドを破壊して肉まで斬られ、骨で止まった。


 叫びたくなるほどの痛みを感じたが表情には出さず、笑顔を作る。


「血を吸わせろ」


 干からびた自分を想像してしまったのだろう。


 怯えた傭兵団長は剣を手放して距離を取ろうとしたので、足を引っかけて転ばす。


 仰向けに倒れたので、両肩を踏みつけるとヴァンパイアソードの切っ先を突き付けた。


「餌のくせに逃げるんじゃない」


「俺は人間だ! 餌じゃない!!」


 足をばたつかせて逃げ出そうとしているが、ブレストプレートまで着込んでいる俺を、押しのけられるはずがない。


「餌が嫌なら、生きる回復ポーションとでも呼んでやろう。俺の傷をいやす道具となれ」


 ヴァンパイアソードを胸に突き刺した。


 傭兵団長は血を吐きながらも睨みつけてくる。


 死の恐怖というのを味わせるために、わざと吸血のスピードを遅くしていく。


 徐々に刀身が赤くなる。


 傭兵団長は体から水分が抜けていく様子を見守るしかない。


「助けてくれ……」


「貴族に攻撃をして許されているとでも思っているのか?」


「俺の裏にはリーム公爵が……」


「そんなもん知っている。だから何だ? あの豚が、今のお前を助けてくれるのか?」


「…………」


 平民をゴミとしか思っていないリーム公爵のことだから、この男が目の前で死のうが気にしない。


 使い捨ての道具のクセに守ってもらえるなんて、勘違いしないことだな。


「ようやく自分の愚かさに気付いたみたいだな。お前は貴族の策略に巻き込まれた時点で死ぬしかなかったんだよ」


 声を出して嗤ってやると、傭兵団長から力が抜けて生きることを諦めた。


「十年もかけて育てた俺の傭兵団が消えていく……」


 アデーレやユリアンヌに殺されていく傭兵たちを眺めて、つぶやいていた。


「貴族に逆らえば全てを奪われる。ガキでも知っていることを、お前は軽視した。その報いだ」


 決して正しいとは思わないが、力なき存在はこの世界では許されない。


 奪われたくないのであれば、あらゆる面で強くなければいけないのだ。


 ヴァンパイア・ソードに血を吸われて命が尽きるその瞬間まで、傭兵団長は仲間を見続けていた。


 干からびた傭兵団長を持ち上げて叫ぶ。


「お前達のボスは死んだ! 戦う意味はない! 大人しく投降するなら命は保証してやる!」


 生き残っていた僅かな傭兵たちは、武器を手放すと膝をついて抵抗を止めた。


 傭兵のヤツらは犯罪奴隷として、装備と一緒に売り飛ばしてやろう。


 結婚資金の足しになるだろう。


 恐ろしさは徹底的に叩き込んだことだし、奴隷となってから襲っても割に合わないと、俺のことを広めてくれることだろうよ。

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