第193話 ば、化け物だ……
リーム公爵の傭兵が近づいているという報告を受けてから、私兵を連れて第一村に滞在していた。
せっかく復興しつつある村が荒らされても困るので、領地に入ったらすぐに迎え撃つ準備をしているのだ。
結婚の話をしてから一週間後、傭兵団は俺の領地に入ってきた。
人数は五十人ちょっとらしい。
「止まれ!」
私兵やアデーレ、ユリアンヌを後ろに配置すると、腕を組みながら叫んだ。
先頭を歩いていた傭兵が不思議そうな顔をしながら足を止める。
私兵が俺の紋章を描いた旗をかかげているので、貴族に関わる者だと判断したのだろう。
粗野だがバカではないのかもしれんな。
「俺はジャック・ジラール。この土地の領主だ。お前たちは何をしに来た?」
名乗ると傭兵たちが一斉に笑った。
貴族に対して舐めた態度を取りやがって。
「お貴族様が、こんなところで何をしているので?」
ニヤニヤと馬鹿にするような顔をしながら、傭兵の集団から一人の男が前に出てきた。
態度、装備、身にまとう雰囲気からして傭兵団長か、それに近しい人物だろう。
「我が領地で滞在している間、武具は預からせてもらおう!」
冒険者と同じく傭兵団も領地間の行き来は許可されているが、扱いについては領主の裁量に任されている。
武器を預かることもあれば、村の立ち入りを禁止するような領地もあるので、俺の要求は常識外のことではない。
荒らす目的がなければ大人しく従うはずだ。
「断ると言ったら?」
「ルールを守れないヤツらは全員、死罪だ」
「ほぅ」
話している男から笑みが消えた。
目を細めて魔力を開放する。
なかなかの実力者ではありそうだが、魔物と戦い強くなった俺の敵ではない。
「これは警告だ。一歩でも前に進めば、この俺が直々に処刑してやる。嫌なら武器を地面に置け」
脅しても傭兵たちは武器を手放すことはしない。
敵対する意志がひしひしと伝わる。
「俺たちをただの傭兵だと思うなよ?」
「後ろにリーム公爵がいるだけだろ。だからなんだ? パパがいないと怖くて外も歩けない子供かよ」
手を軽く上げると、俺の私兵たちが笑い声を上げた。
馬鹿にされて話している男の顔が真っ赤になる。
剣を鞘から抜くと切っ先を俺の方に向けた。
「田舎男爵のくせに! 調子に乗るなよッ!」
「俺に剣を向けた罪は重いぞ」
魔力で身体能力を強化しながらヴァンパイア・ソードを抜く。
飯の時間だと、心の中で語りかけてから疾走。
動きが速すぎて、話していた男の首をはねてから、傭兵たちは何が起こったのか理解したようだ。
「十人隊長が一瞬で……」
ゲームではよくあることだが、レベル差があるとダメージを受けることなく一人で無双できる。
『悪徳貴族の生存戦略』も同様……いや同人ゲームだからなのか、バランスがおかしかったので、雑魚狩りはたった一人だけでも余裕で勝てた。
この世界はステータスなどは存在しないようだが、魔力を貯蔵する臓器の鍛えかた次第では、こうやって圧倒的な実力差で叩きのめせる。
十人隊長の強さがこの程度であれば、リーム公爵が雇った傭兵のレベルは低いな。
ゲームでは、私兵が減った代わりに補充する使い捨てのヤツと同等だろう。
俺やアデーレ、ユリアンヌなら一人で勝てる。
「誰にケンカを売ったのか教えてやるよ」
人差し指を前後に動かして挑発した。
「ビビるんじゃねぇ! ウェンツの仇を取るぞ!」
傭兵団に命令をだしている男が見つかった。
こいつが傭兵団長か。
「弓を放てッ!!」
数十本の矢が空に放たれ、俺に向かって落ちてくる。
顔や心臓という急所を除いてわざと矢が突き刺さるようにした。
焼けるような痛みが体を襲ってきたが、表情は変えない。
ウェンツと呼ばれた男の体にヴァンパイア・ソードを突き立てて、血を吸い取る。
刀身に刻み込まれた溝がドクドクと脈動して血を吸い上げ、体を癒やし、俺に刺さった矢が抜けていく。
「ば、化け物だ……」
最前列にいた傭兵がつぶやきながら後ずさった。
血を吸って傷を癒やすなんて、普通ではないからな。
怯えるのも無理はない。
「逃げるな! 攻撃しに行け!」
傭兵団長が叫びながら体勢を立て直そうとしている。
冷静になられたら面倒なので邪魔をしよう。
『シャドウ・バインド』
影が伸びて隊長の口を塞いだ。
すぐに抜け出してしまうだろうが、その前に瓦解させてやる。
一足で近くにいる傭兵に近づくと腹を突き刺して、体を刀身につけたまま剣を上げる。
「た、助けてくれぇ!!」
悲鳴を上げていたが、体中の血液を吸われてるとすぐ静かになった。
剣を振るって、干からびた死体を捨てる。
「血をよこせ」
笑いながらいったことで傭兵たちはさらに怯えた。
剣を落とすようなヤツもいて、戦意は完全に落ちている。
「こ、こんなの聞いてねぇ」
「割に合わねえじゃないか!」
「俺はこんな死に方したくない!!」
背を向けて傭兵たちが逃げ出そうとする。
「ぎゃぁ!!」
影の拘束から抜け出した傭兵団長が仲間を斬り捨てた。
見せしめにしてもエグいことをする。
「俺に殺されたくなければ戦え! 相手は一人なんだから、囲めば終わるぞ!」
人数差があることを思い出した傭兵達の足が止まった。
せっかく生かしてやろうと思ったのに。
俺の慈悲深い心を理解しないヤツらだ。
仕方がないので、皆殺しにしてやろう。
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