第183話 婚約者に高級な下着をプレゼントしたかったので

「手を出すために屋敷に招いていたわけではありません。各地で領地を観光しているらしく、糸をもらう代わりに案内させてます」


「糸? 一晩ではなく?」


 こいつ、さっきから女を抱くことしか考えてないぞ……。


 一部界隈で種付けおじさんと呼ばれていただけはある。


 ヒロインを寝取る設定、いや性格は健在というわけだな。


 さて、状況の把握はこの程度でいいだろう。


 そろそろ種付けおじさんのプライドを合法的に叩き潰す準備を進めるか。


「婚約者に高級な下着をプレゼントしたかったので」


「何色にするつもりだ?」


「意見を聞いてから決めようと思っていました」


「あの女なら白でいいだろう。下着と一緒に汚してやるのが楽しみだな」


 下着の話をしたら狙っていたとおり食いついてきた。


 リーム公爵のテンションが上がっていき、饒舌になっていく。


「ジラール男爵。さっさと呼び戻してこい。夜とは言わず、今からベッドに連れ込む!」


「いや、だからアレは俺の婚約者で……」


「だからいいんだろッ! 他人のものを取るってのが、最高のスパイスになるんじゃないかッッ!!」


 両手を挙げて、とんでもないことを叫びやがった。


 ダメだコイツ。


 前世では寝取られジャンルが流行っていたものの、俺にはそんな趣味はない。


 婚約者を豚に捧げる様なことは絶対にしないので、二度と俺たちに手を出せないようにするべきだ。


「断ります」


「公爵家の命令を断る意味、お前は分かっているのか?」


 ついに権力を振りかざしてきやがった。


 行動がわかりやすくて助かる。


「敵対したいわけではありません。今は、セラビミア様の捜索を優先するべきだと言いたいのです。隣国に逃げられでもしたらどうするのですか?」


「むむ」


「それに……逃げ出した女を無理やり襲う方が、そそりませんか?」


 最後の一言がきいたのか、リーム公爵は悩み出した。


 俺をハメたんだから罪悪感なんてなく、もしターゲットが完全に変わるのであれば手伝うくらいはしてやってもいい。


 悩んでいる姿を見ながら余計なことは言わずに、じっと待っていると足音が聞こえてくる。


 ドアが勢いよく開くと、屋敷を荒らしていた騎士たちが戻ってきた。


「どこにもいませんでした。領内のどこかに逃がした可能性があります」


「領内にいるはずないだろ。置き手紙通り、逃げ出したんだからな」


 足を組んで否定してやると、騎士は見下すような目で俺の見た。


 爵位としては俺の方が上なんだけどな。


 田舎男爵は貴族ではないなんて思ってそうだ。


 そういった妄想をするのはかまわないが、俺の方が爵位は高いという事実は変わらないぞ。


「セラビミアも、あの女も欲しいな……」


 一度スイッチが入ると元に戻れないようで、脳内でゲスい妄想が広がっているようである。


「だが貴族から無理やり奪うと王家がうるさいし、どうするべきか」


 脳みその小さいリーム公爵が悩んでいると、騎士の一人が耳打ちをしてから顔を離し、見下すような目で俺を見た。


「ジラール男爵、決闘をするぞッ!」


「は、はぁ?」


 意味が分からない……といった態度をしながら、心の中では笑っていた。


 女を欲しがらせれば、絶対に決闘という結論にたどり着くと思っていたぞ。


 合法的にリーム公爵家のプライドをへし折り、そして二度とこの領地に入れないようにするため、受けて立とうじゃないか。


「察しが悪いとこだな! お前の女を賭けて決闘をするんだ。もちろん、辞退は許さないからな」


 リーム公爵の騎士たちが腰にぶら下げている剣の柄に手を当てた。


 断れば殺すぞという脅しなのだ。


 先ほどは俺が脅していたのでやり返したつもりなのだろう。


「私が婚約者やメイドを賭けるとして、リーム公爵は何を賭けられるので?」


「考えていなかったな」


 どこまでも自分勝手な男だな。


 公爵家という立場がなければ、即刻斬り捨てているところでだ。


「金でどうだ? 金貨千枚ぐらいまでなら出すぞ」


「お断りします。金で買える女たちじゃありませんからね」


 提案を断った瞬間、騎士から殺意を感じたが気にはならない。


 ヴァンパイア・ソードがあれば致命傷を受けても、傷は癒やせるからな。


「では、願いを一つ聞いてやろう。破格の報酬だと思わんか?」


 確かにユリアンヌたちを天秤にかけても釣り合う報酬ではある。


 今の俺にとっては魅力的だ。


「わかりました。条件は問題ございません。それで私が戦う相手は誰でしょうか?」


「本来であれば当主同士が戦うべきなのだが、私は歳を取り過ぎて動けない。今回は代理として騎士同士を戦わせる」


 下半身は元気なくせに年老いたなんてよく言えるな。


「エンリケ! 今回はお前が戦え」


「かしこまりました。必ず勝利をリーム公爵に捧げます!」


 名前を呼ばれた騎士が胸に手を当てて大声で返事をした。


 歩き方や立ち振る舞いからして騎士としての実力は下の下っぽいな。


 俺でも余裕で勝てる。


「ジラール男爵は誰を用意する? 騎士でなければ参加できんからな」


 ああ、そいうことか。


 俺に仕える騎士がいないと思い込んで、こんな条件を提案したみたいだな。


 決闘ではあるが戦わないで勝てるなんて思っているのだろう。


 全く愚かな豚どもだ。


 ジラール領に踏み込んだことを後悔させてやる。

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