第182話 お前も良い趣味しているじゃないか
置き手紙を見て興奮したリーム公爵を見て、騎士が声をかける。
「公爵様、その手紙が本物だとは分かりません。調査が必要かと」
「むむ! 確かに!」
順調だったのに余計なことを言いやがって。
疑いの目が俺の方に向いている。
「これは本当にセラビミアが書いたのか?」
立ち上がると、ぷくっと出た腹が揺れた。
興奮したまま歩くと俺の前に立つ。
帯剣しているというのに警戒しているように見えない。
攻撃されるなんて思っていないみたいだ。
それは、後ろで見ている騎士も同様である。
田舎男爵風情が公爵家に逆らうなんて、想像してないんだろうな。
「もちろんでございます。筆跡を調べていただければ私の言葉が真実だと分かるかと」
「確かに……」
こいつ心配になるぐらい単純な男だ。
ヒロインを寝取るキャラクターとして登場していたが、権力と性欲以外は無能な設定になっていたのか?
血筋だけの男みたいな。
あのセラビミアが設定したのであれば、ありえる話だ。
「筆跡を調べるのには時間がかかります。ジラール男爵領に逃げ込んだのは間違いないので、調査を優先された方が良いのではないでしょうか?」
「そうだな! まずは、この屋敷を調べろ!」
「拝命いたしました!」
リーム公爵の命令を受けた騎士たちが部屋から出ていこうとする。
主である俺を無視した態度に苛立つが、反抗しても止められない。
反感を買い、疑いが強くなるだけなので、むしろ協力的な姿勢を見せるとするか。
「ケヴィンに部屋の案内をさせます。不明な点があれば聞いてください」
「よい心がけだな」
「リーム公爵の邪魔をするわけにはいきません。ですから、屋敷を荒らさないように調べていただけると……」
わかりやすく俺の願いを伝えると、リーム公爵は嫌らしい笑みを浮かべた。
口が僅かに開き、ねちゃっとした唾液が縦に伸びて気持ちが悪い。
よくもまぁ、ここまで嫌悪感を覚える人間が存在するものだ。
「わかっている」
リーム公爵は、俺たちの会話を聞いている騎士たちの方を向いた。
「徹底的に調べろ。物を壊してもかまわん」
騎士たちは俺を見下すような目で、悪意を隠すことなく首を縦に振った。
予想通りというか、俺より悪役っぽい立ち回りをするな。
屋敷にある物の多くは壊されると思って良いだろう。
まあ、高級品なんて売ってしまったので、困ることはないがな。
「よし行くぞ!」
「おう!」
荒っぽい声をあげた騎士たちは、ケヴィンを連れて部屋を出て行ってしまった。
すぐに物音がし始めたので強盗作業が始まったのだろう。
「時間がかかりそうですね。紅茶のお代わりはいりますか?」
「もちろんだ。焼き菓子も用意しろ」
「かしこまりました」
あえてルミエの近くにまで移動すると、リーム公爵に聞こえないほどの声で囁く。
「イナとユリアンヌ、アデーレは屋敷の外に出しておけ。金を渡すから数日間、レーアトルテを連れて領内を案内してやれ」
ルミエは俺の側に置いておけば大丈夫だが、イナは見習いで屋敷中を歩いている。
騎士たちに目をつけられて襲われたら困るので、外へ逃がすことにしたのだ。
速さが全てだ。
レーアトルテには悪いが、集落から持ってきた槍や鎧などの武具は置きっぱなしにしてもらおう。
「かしこまりました。最上級の茶葉を使ってご用意いたします」
余計なことは言わずにルミエは部屋を出て行った。
これがアデーレなら俺の意図は通じなかっただろう。
雑談でもして時間を潰そうと思いソファに座ると、リーム公爵の顔を見る。
「夜になったら女を三人連れてこい」
こいつは……救いようがないな。
異常だと思えるほど、セラビミアが考えた設定に忠実である。
婚約者に逃げられている最中だというのに、新しい女を要求するとは。
頭のネジが数本は飛んでいるぞ。
もしかしたら、グイントが時折発する黒い靄のような存在が、リーム公爵にもあるのかもしれん。
イナたちを逃がして正解だった。
「セラビミア様を探さなくてもよろしいので?」
「この屋敷にいるなら問題ないだろ」
「いません。断言します」
「だったら、騎士どもに探させるだけだ」
一呼吸置いてから、リーム公爵が笑顔になった
「そういえばお前に婚約者がいたな。アレを私に融通しろ。それでセラビミアを奪おうとした罪を帳消しにしてやる」
クソ豚野郎がッッッッ!!
俺にしては珍しく感情的になってしまい、購入したばかりのローテーブルを叩いてしまった。
ヒビが入り、拳を叩きつけた周辺がへこんでいる。
ここまで舐められたら引き下がれん!
「ど、どうしたのだ?」
「虫がいたようなので殺しました」
突然の蛮行に驚いているようで、リーム公爵の口が引きつっている。
暴力をするのは良くても、されるのは苦手か。
子守をしている騎士が家を荒らしている隙に圧力をかけてやる。
「さて、リーム公爵。話は変わりますが……」
ヴァンパイア・ソードを軽く叩きながら話を続ける。
「私の屋敷は、剣を手放せないほど物騒なんですよ」
危険を感じたリーム公爵は、助けを求めるために後ろを見る。
動きが止まった。
ようやく守ってくれる存在がいないと気づいたようだ。
「魔物が忍び込むこともあって、高貴な貴族様を泊められるような場所ではありません。もしかしたらセラビミア様は、自分の領地に戻った可能性もあるので、旧デュラーク領に戻られたらどうですか?」
ゆっくりと首を動かして俺を見る。
「う、うむ。そうしようか……」
一人では何も出来ないクズが。
最初からそういえば良いんだよ。
「では騎士が戻り次第――」
「まて、あの女どもは何だ?」
俺の視線から逃げるようにして、窓から外を見ていたリーム公爵の雰囲気が一変した。
種付けおじさんの使命を思い出したような顔と股間をしている。
何があったんだと思って俺も外を見ると、アデーレたちが歩いていて、俺の怒りは一気に霧散するのと同時に焦りがわく。
ユリアンヌをよこせと言ったときより、絶対に手に入れるぞという意志を感じたからだ。
「メイドと傷のある女、獣人の女……あれはアラクネか。お前も良い趣味しているじゃないか」
好色そうなめつきをしていた。
ゲームではヒロインを寝取ることで有名なキャラだったので、発言に違和感はないが……迷惑な話だ。
このままだと寝取りフラグが立ってしまうかもしれないぞ。
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