第184話 相手の心が折れるまで何度も叩き潰せ
「では、私の陣営からは騎士ヨンを出します」
田舎男爵に仕える騎士がいると思っていなかったようで、リーム公爵や騎士たちが驚いた顔をしていた。
戸惑っているだけで条件を追加してくる様子はない。
他にも姑息な手段を使ってくるかと思っていたら、他に考えはないようだな。
さすが種付けおじさん。
浅はかである。
「決闘ですがそれぞれ普段使っている武器で戦い、相手が降参と宣言するか、戦闘不能になるか……そして死ぬかの三つでよろしいですか?」
「う、うむ。それでいい」
決闘の中でも一番厳しい勝利条件――対戦者の死亡まで入れて提案したら、リーム公爵は承諾した。
騎士の顔色はやや悪い気がするのは、死ぬ覚悟すらなくケンカを売っていたからだろう。
「見届け人はどうしますか?」
爵位の違う貴族が決闘する場合、難癖を付けて結果をねじ曲げられてしまう心配がある。
過去に何度も起こったことなので、決闘では見届け人が必須となっていた。
「今回は王家から派遣された見届け人が必要となるが、私は待てん」
下半身でも物事を判断しているリーム公爵なら、そう言うと思っていた。
すぐにでもアデーレやユリアンヌを手に入れて楽しみたいだろうからな。
だから付け入れる隙がある。
「でしたら、領民の前で決闘をしませんか?」
「ヤツらを見届け人の代わりにするか。悪くはない考えだ。許可しよう」
公の場で決闘をすれば勝利者を誤魔化すのは難しい。
もし結果をねじ曲げたという噂が出回れば、神聖な決闘を穢したという理由で王家から制裁が来るだろうからな。
「ありがとうございます。決闘はいつからやりますか?」
「今すぐにだ」
「かしこまりました。それでは契約書を作らせてきます」
決闘の条件を記載した契約書を作成し、両者がサインすることで成立するのだ。
二通作って両者で保管する形になる。
「ケヴィン」
「すぐに作成いたします」
名前を呼ばれたケヴィン部屋から出て行った。
やつなら何でも作れるから問題はないだろう。
「それでセラビミアの調査はどうされるのですか?」
決闘の話で忘れてしまいそうになったが、本来は逃げ出したセラビミアを捕まえに来たのだ。
新しい女が手に入るかもしれないと浮き足立っていたとしても、リーム公爵は諦めないだろう。
「決闘に参加しない騎士をジラール領の各村に派遣して調べる。いいな?」
「手荒なことをしないと約束していただけるのであれば」
「……一応、約束してやる」
「でしたら案内役の兵を数人付けますので、ご自由にお調べください」
返事の雰囲気からして、屋敷のように荒らされるだろうが許容範囲だ。
いつか仕返ししてやるという復讐の原動力に使ってやる。
嫌がらせされたことはずっと覚えておくタイプだからな。
「では三時間後、町の中心で決闘をしましょう」
ようやく合法的にリーム公爵のプライドをへし折る機会が訪れたのだ。
民衆の前で徹底的に恥をかかせてやる。
どんな手を使ってもな。
◇ ◇ ◇
リーム公爵たちは領地の巡回や決闘の準備のため応接室から出て行ったので、ヨンを呼びつけて決闘の話を伝えると、やる気を見せていた。
「娘に手を出そうとするなんて、絶対に許せませんな」
ユリアンヌを大事に思っているヨンなら、当然の反応だ。
望まぬ相手と一夜でも過ごさせるなんて許容できることではないので、やる気は充分だろう。
「当然だ。屋敷を荒らされ、婚約者を取られようとしているんだ。勝つだけでは足りない。徹底的に恥をかいてもらおう」
「どうするのですか?」
「コレを使って能力を上げて、相手の心が折れるまで何度も叩き潰せ」
俺がヨンに渡したのはハイナーからもらった能力アップの薬だ。
ただでさえ強いヨンが使えば、まさに鬼神ともよべる次元に達する。
素手で騎士に勝てるレベルだろうよ。
「秘薬ですか。よくお持ちでしたね」
「知り合いに優秀な商人がいるからな。今後も少量だが手に入ると思うぞ」
ゲームと同じようにハイナーが頑張ってくれることだろう。
そのために土地や建物も優遇してやったんだからな。
「効果は半日は持つ。今から飲んでおけ」
ちなみに決闘で能力アップの秘薬を使うことは禁止されていはいないが、推奨はされていない。
使ったことがバレれば、卑怯者として代々語り継がれ、貴族としての評判は下がる。
だが、そんなこと俺にとってはどうでもいいのだ。
なんせジラール家の評判は、地に落ちているからな!
周囲の評価なんてどうでもいいのだ。
それよりもリーム公爵の騎士に勝つことの方が重要である。
ヨンは手に持った瓶を光にかざして中身を確認すると、俺に返した。
「遠目からですが、騎士たちを見ました。あの程度であれば貴重な秘薬を使わずとも勝てます」
真面目な男だから、秘薬を拒否しやがったッ!!
娘の話をすれば卑怯な手も選んでくれると思っていたのだが、俺の想像を超える堅物だな!
「お前が負ければユリアンヌは、あの豚に取られるんだぞ? 万が一も許されない状況だと理解しているのか?」
「もちろんでございます」
怒りを堪えている声であった。
俺に言われるまでもなく、ヨンは絶対に勝つと心に決めていたようだ。
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