第178話 声がデカい
「もちろんだ。嘘ではない。だから俺の期待に応えてくれよ」
「はい! 王都から貴重な商品を取り寄せているのでご期待下さい!」
最近は予想外のことが多すぎて、ゲームの設定通りの動きをするハイナーを見るとほっとしてしまう。
王都の商会で働いていた経験を活かして、商品を仕入れるルートはちゃんと確保しているはず。
そして、逆も可能だろう。
「ハイナーが持っているルートを使って、貴重な鉱石や果実を王都で売ることも可能か?」
アラクネの集落で男と交換、もしくは税として手に入れた貴重な品は、金に換えなければならない
ジラール領に資源があると知られたくなかったので、遠い地で売ろうと思っていたのだ。
「えぇ、もちろん。そういった物を取り扱っている商会とも知り合いですし、現物があれば取引は可能です」
「俺が売ったというのを隠しても、か?」
「え、それは……」
販売主を隠す理由なんて、まともなものはない。
盗品の販売に協力しろと言われたんじゃないかって勘違いしたのだろうか、緊張しているように見える。
馬から下りてハイナーに近づき、耳元でささやく。
「俺の領地で貴重な品が産出できると知れ渡れば、他の貴族から目を付けられてしまう。こっそりと商売したいんだ」
「ジラール男爵の懸念は理解できますが、気にしすぎなのでは?」
「取引する品がミスリルやアダマンタイトだと言っても、意見は変わらないか?」
「え、鉱山が見つかったんですか!?」
「声がデカい」
「も、申し訳ございません」
貴重な鉱石が二種類も手に入ると分かって、ハイナーは興奮していた。
俺が言いたかったことを理解してくれたらしく、もう疑わしい目はしていない。
「俺は領地を守るだけの力を手に入れたい。準備が終わるまでは隠しておきたいんだが、頼めるか?」
デュラーク男爵の事例があるので、俺が領地を守るという言葉に一定の説得力を感じたことだろう。
「そういう理由でしたら、協力いたします」
やはり正直に言って良かった。
ハイナーは真面目な男だから、誠実な態度を見せれば首を縦に振ってくれると思っていたぞ!
これで重要なピースは揃った。
あとは時間をかけて鉱石を売りさばき、大金を手に入れて兵力を強化。
優秀な文官を雇って仕事させれば、ジラール領は勝手に発展していくだろう。
さらに、ケヴィンを秘密裏に処分すれば完璧だ。
アイツを生かしていたら、ゲームのシナリオ通り敵対する領主に寝返る可能性があるからな。
反抗的な態度を続ける者であれば殺さなければならない。
屋敷での影響力が大きいので不自然な死に方をしたら俺が疑われるだろうし、じっくりと対策をねるか。
「店の準備が終わったら俺の屋敷に来い。今後のことを話そうじゃないか」
必要なことは伝えたので、ハイナーから距離をとると馬に乗る。
「ちょっとお待ちください」
去ろうと思ったら呼び止められた。
腰にぶら下げている布袋から、ハイナーは深紅の液体が入った瓶を取り出す。
「これは一時的に体内の魔力が増大する秘薬です。お近づきの印としてお譲りします」
『悪徳貴族の生存戦略』では能力アップ系の秘薬はいくつかあった。
どれもが貴重で効果は絶大。
使えばジャイアントキリングも期待できるほど。
入手方法はハイナーの店で購入するか、失敗率の高い錬金術で調合するしかなく、数を揃えるのが大変だった記憶がある。
しかも深紅の液体は秘薬の中でも最上位に位置し、飲めば平民でも騎士を殺せるレベルになるだろう。
「そんな貴重な物をもらってもいいのか?」
「見返り期待していますから」
色々と優遇してくれよ、という意味がこもっているのか。
その態度、嫌いじゃないぞ。
「なら、遠慮なくいただこう」
ハイナーから瓶を受け取るとポケットにしまい、馬の手綱を持つ。
「では、また会おう」
馬の腹を軽く蹴って移動を再開すると、アデーレと一緒に町の中を進む。
馬から見下ろす町の治安は良いとは言えないが、俺がジャックの体に入ったばかりの頃に比べて、人々の表情は明るい。
今日より明日の方が良くなると信じられている顔だ。
俺が領主だと気づいた領民は、ちゃんと道を譲って頭を下げるし、舐めている様子がないところも良い。
荒れ果てたジラール領は改善に向かっている。
だからこそ、セラビミアがやろうとしていることは許せない。
絶対にリーム公爵から逃げ切ってやるからな。
「次はどこに行くんですか?」
そういえば言ってなかった。
アデーレの疑問に答えるとしよう。
「仕事の斡旋所だ。アラクネに渡す男を見定めてくる」
派遣する男のまとめ目役はグイントにすると決めているから、相性が良い相手を選べるよう、俺の目でも確認しておきたかったのだ。
セラビミアと話す前に依頼は出させたので時間はそれほど経っていないが、条件は良いので即刻定員に達していることだろう。
いまから、どんな男が集まっているか楽しみである。
「分かりました。どんな男が襲ってきても、私が守りますからね」
「そんなヤツいないとおもうが……」
「思うじゃダメなんです。絶対にいないと判断するまで安心出来ません。だから、ずっと離れませんからね」
圧迫感を覚えたと思ったら、アデーレに強く抱きしめられたらしい。
馬上なので身動きはとれない。
いつも通り匂いを嗅がれながら進むしかなかないだろう。
領民から変な目で見られながら町のはじに進むと、小さい広場に着いた。
中心には小屋が三つ並んでいて、ボロボロの服を着てホコリだらけの男が囲んでいる。
人数は数十人といったところか。
他にも子供や大人の女もいるが数は少ない。
「男であれば年齢は関係ない! 男爵様が美味しい思いはできると言っている依頼だぞッ!」
小屋にいる小太りの男たちが叫んでいた。
俺の依頼を達成しようと人を集めているのは良いのだが、どうして四人とも似たような体型なんだろうな。
悪人みたいな顔をしているし、人身売買しているような雰囲気を感じた。
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