第177話 俺を裏切ったら殺す
「ジラール男爵の計画は悪くないけど、協力した見返りはあるのかな?」
誰のせいで苦労しているんだ! と、叫びたくなったのをグッと堪えて我慢した。
こいつは狙って俺を挑発しているので、冷静さを失えば破滅するだけである。
「リーム公爵の怒りを買えば、領地は奪い取られて俺は死ぬだろう。それは、セラビミアが望むことではないだろ?」
「そうだね。ジラール男爵には生きてもらわなければいけない……けど、私が助命すれば殺されることはないでしょ。むしろリーム公爵と手を組んで遺跡探検ツアーを――」
「戯れ言は、そのぐらいにしておけ」
セラビミアが転生者以外の力を借りて、遺跡探検ツアーなんてしないだろう。
俺とは違ってセラビミアは、ゲームの住人を下だとみている言動が多いからな。
軽い口調で親しくするふりはできても、本音は絶対に言わないはず。
「俺には後がないんだ。ちゃんと話せ」
じっと目を見られている。
圧力を感じたのは気のせいではないだろう。
ここでリーム公爵と手を組むと言われてしまえば、俺は領地から逃げ出すしかなくなる。
表情に出ないように気をつけながら、俺の予想があっていてくれと願っていた。
「ふーん。ちょっとは私のことわかってるだね」
俺にかかっていた圧力が急に消えた。
「いいよ。ジラール男爵の話に乗るよ。これから私はどうすれば良い?」
なんとか俺の味方……ではないか、謎の立ち位置ではあるが、協力はしてくれるらしい。
不安要素はたっぷりあるが絶望するほどではない。
後は行動するのみである。
「まずリーム公爵はいつ、ここに来るか教えてくれ」
「一週間ぐらいじゃないかな。多分だけど」
「だったら三日後、第四村に向けて出発してもらう」
アラクネの集落に行くなら手土産――男が必要だ。
集めるのに三日もあれば充分なはず。
後はセラビミアが俺の領地から逃げ出したという目撃証言を作るため、小細工をするか。
「わかった。頑張ってね~」
誰のせいで頑張らなければ行けなくなったと思っているんだ!
と、再び叫びたくなった気持ちを押し込めてから、立ち上がる。
「言われるまでもない。俺は、俺のために頑張るだけだ」
「いいね。その強気な姿勢」
当たり前だ。
俺は搾取する立場なんだからな。
「出発までに手紙は書いてくれよ」
「わかってるって。ジラール男爵は心配性だね」
「誰のせいだよ」
なんだか怒る気力すら湧かなかった。
疲れてしまったので話を切り上げよう。
「では、失礼する」
ソファから立ち上がるとドアの前に立つ。
目の前にケヴィンがいるので、顔を耳に近づけた。
「セラビミアに何を言われたのか分からないが、俺を裏切ったら殺す。それだけは覚えておけ」
小言で言い終わると離れて、ドアを開けて外に出る。
カートに紅茶を乗せたルミエたちがいた。
ケヴィンが邪魔をして中に入れないようにしていたみたいだな。
「話し合いは終わったが、セラビミアに紅茶ぐらいは淹れてやってくれ」
「かしこまりました」
何か言いたそうな顔をしていたがルミエは、返事をするだけで余計なことは言わなかった。
彼女はゲーム上で裏切る設定だったが、ルートヴィヒを厚遇している今、その可能性は低い。
気にするべきはケヴィンのみだな。
◇ ◇ ◇
屋敷を出た俺は、アデーレを連れて町に出ていた。
目的地はハイナーの店である。
俺と別れた後すぐに引っ越してきたらしく、開店の準備をしていると聞いたので見に来たのだ。
馬車で移動なんて贅沢なことはできない。
アデーレを後ろに乗せて馬に乗ると、メイン通りを進む。
「いつもより人がいっぱいいますね」
「デュラーク領から逃げてきたヤツらが、ここにも集まっているんだろう」
この中の数人はアラクネの集落に行くことになるだろうが、族長のトリシュに送る男だけは、俺の息がかかった男にしなければいけないので、派遣メンバーのリーダーはグイントにする予定である。
アラクネが彼の性癖に刺さっているので、喜んでくれることだろう。
またグイントを派遣すればセラビミアの動向を監視できるのも大きい。
裏でセラビミアが悪さをしても気づけるからな。
俺が持っている手札の中ではベストな人選だと考えている。
「ジラール領に活気が出て嬉しいです」
「そうだな。人が増えることは良いことだ」
純粋なアデーレは喜んでいるが、人が増えた分、食料や仕事を用意しなければ領地は荒れてしまう。
デュラーク男爵からぶんどった金があるから、今は俺の名前で仕事を出せているから良いが、このままだと一年もしないうちに尽きるだろうよ。
早めにアラクネとの取引を開始して、資金を増やさなければならん。
「あ、あそこにいましたよ」
考え事をしていたら目的地に着いたようだ。
後ろにいるアデーレが指を差した方向には、店前で木箱を運んでいるハイナーの姿があった。
服が汚れるような仕事をしているらしく、エプロンみたいなものを身につけて、頭には頭巾をかぶっている。
「ようやく、俺の領地で店を出す気になったようだな」
近づいて馬に乗ったまま声をかけると、木箱を地面に置いてからハイナーが振り返った。
「ジラール男爵、お久しぶりです」
「元気そうだな」
「ジラール男爵のお力添えがあったので良い場所に店が出せましたし、気合いが入るというものですよ!」
頭を上げたハイナーは笑顔だった。
王都から追い出されて絶望していたところに手を差し伸べたんだから、当然の結果だな。
ここで不機嫌そうな態度を取っていたら斬り捨てるところだったぞ。
「そのうち俺からも仕事を依頼するだろう。その時は頼んだぞ」
「よろしいので!?」
貴族と取引ができると知って、さらに喜んでいた。
裏切らなさそうな商人がハイナーぐらいしか思い当たらないので、消去で選んだのだが、それは言わないでおこう。
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