第150話 嫌みな男だねぇ

「セラビミアの婚約祝いだ。遠慮なく飲めよ」


「嫌みな男だねぇ」


「今まで散々な目にあってきたからな。楽しむしかないだろ」


「あはは、それは嬉しいな」


 ワインを飲みながら、セラビミアの表情を観察する。


 言葉に力はなく、今回の婚約については、相当なダメージを受けてそうに見えた。


 完璧な世界を目指すと、俺に宣言していた大胆不敵な姿はない。


 ざまぁみろ、と言ったところだな。


 勝手に自滅してくれて助かる。


「酒が美味いと、つまみも欲しくなるな」


 チラッとルミエを見ると、軽く頭を下げてから部屋を出て行った。


 塩漬けのジャーキーっぽい食べ物を持ってきてくれることだろう。


 詳細を言わなくても伝わる関係というのは心地よいが、甘えすぎてはダメだ。


 俺がルートヴィヒに対する対応を間違えてしまえば、ルミエもデュラーク男爵を裏切ったメディアと同じことをするだろうからな。


 屋敷の管理で頼ることはするが、絶対に裏切らないと信じるようなことはしない。


「そういえば、その剣、人前で使うのは控えた方が良いかもね」


 セラビミアが、腰にぶら下がっているヴァンパイア・ソードを見ながら言った。


 今なら詳細が聞けそうなので、突っ込んで聞いてみるか。


「俺の側から離れないんだが、どうにかする方法はあるか?」


「ないよ」


 マジかよッ!


 即答されてしまったので、思わず心の中で突っ込んでしまった。


「一種の契約だからね。手の甲に浮かんでいるマークを削り取ったとしても、別の場所に出てくる。ヴァンパイア・ソードを投げ捨てても、翌日には側にいる。そういった設定だから、諦めるんだよ」


 デブ親父が婚約者になったとイジったお返しだと言わんばかりに、嗤いながら断言されてしまった。


 常に武器をぶら下げて過ごさなければいけないため、他の貴族と会うことすらできない状況が続いている。


 仮に王家から呼び出しをくらったとして、武器を預けて謁見ができないのだから、困っていたんだが……。


「なぁ、この剣――ヴァンパイア・ソードの正体を教えてもらえないか?」


「いいけど……」


 と言って、セラビミアはアデーレを見た。


 余人がいる場で話して良いのか気になっているのだろう。


「アデーレは大丈夫だ」


「へぇ、ジラール男爵が、そう言い切るなんて意外だね」


 気に障る言い方だな。


 俺のことなんて知らないくせに。


「ゲームのシナリオを考えれば、妥当な決断だと思うが?」


「ジラール男爵が負けない限り、裏切る心配はない」


 重要なキーワードを口にしたことで、どこまで突っ込んだ話をしていいのか分かってくれたみたいだ。


 酒を飲んで顔が赤くなり始めたセラビミアなら、色々と話してくれるだろう。


「初代ジラールは、この土地を開拓し、人が住めるようにした偉大な人物だ」


 その話は、書斎で読んだから知っている。


 魔物がはびこる土地に派遣された初代ジラールは、開拓村の村長として参加。


 十年かけて村を拡大し、人が住める土地にしたのだ。


 王家は、その成果を認め、男爵の地位を与えた。


 というのが、当時の流れである。


「昔はジラール領にも強力な魔物が沢山いたんだけど、ヴァンパイア・ソードがあったから生き残れたんだよね。これが『悪徳貴族の生存戦略2』のオープニングで判明する事実だんだけど、知ってた?」


「いや、初めて知った」


 俺は『悪徳貴族の生存戦略』のプレイ中に死んだからな。


 続編の発表まで生きていなかったのだから当然だ。


「そっか、すると、この設定も知らないか」


「なんだ、気になる言い方だな」


「うーーーん。教えてあげても良いけど……私に感謝してくれる?」


 セラビミアは一気にワインを飲んでグラスを空けると、俺を真っ直ぐ見た。


 軽い貸しにするけど、いいか? と、伝えてきたのだ。


「婚約破棄を手伝えなんて言わないのであれば、一つお願いを聞いてやる。あ、もちろん、俺がお前の婚約者になるという話もナシだぞ」


 一方的な搾取は、裏切られるフラグとなる。


 時には妥協も必要だろう。


「お、いいんだ」


「無茶なのは無理だからな?」


「うん。分かってるよ」


 手酌でワインをグラスに注いでから、一口飲むと、セラビミアが再び口を開く。


「この世界には、大昔にヴァンパイアがいたんだ。人の血をすすり、不死身に近い力を持つ種族だね。昔は人間を家畜にしていたほど、強かった」


 そういえば、ドワーフや獣人、エルフといった定番の種族はいるが、ヴァンパイアはゲーム内で登場しなかったな。


「だが、今はいない。人類が駆逐したのか?」


「うん。人がヴァンパイアを滅ぼす方法を知ってしまってね。各地で反乱が起きて絶滅させてたんだけど――」


 視線が俺のヴァンパイア・ソードに向かった。


「もしかして、剣にヴァンパイアの力を封じ込めているのか?」


「半分だけ正解!」


 楽しそうに笑いながら、セラビミアはワインを飲む。


 残り半分の答えは何だろうと思って、すぐに気づいてしまった。


 嫌な予感がしつつ、確認をする。


「ヴァンパイア・ソードは、俺の意志を乗っ取ろうとしてくるんだが……もしかして力じゃなく、ヴァンパイアの魂みたいなものを封じているのか?」


「大正解! その剣にはヴァンパイアロードの魂が封じてある。血を吸う度に力を取り戻し、そのうち持ち主の体を乗っ取り、復活するよ」


 ドレイン能力は便利だと思って使っていたのだが、やはりそれなりの代償があったか。

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