第151話 もっと良いこと教えてあげようと思ったのに

「……ヴァンパイア・ソードは捨てられないのか?」


 強力な武器とはいえ、俺が消される危険があるなら使いたくはない。


 設定を知り尽くしているセラビミアなら何か知っているだろうと思い、藁にもすがるような気持ちで質問をした。


「ないよ」


 だが現実とは残酷なもので、期待には応えてくれなかった。


 呪われた装備は捨てられないようである。


 ゲームらしい設定だなッ!!


「クソみたいな設定を作りやがって」


 なぜ初代は、貴重な武器を子孫に渡さず墓場へ持って行ったのか疑問に思った時もあったが、理由が分かった。


 ヴァンパイアの復活を阻止するためだったのだろう。


 どうしようもない現実を忘れるべくワインを喉に流し込む。


 アルコールを大量に摂取しているのだが、今日は酔えそうにない。


「主人公が不幸になる物語って、素敵だよね。ふふふ」


 気持ち悪い笑い方をし


「思わんな」


 ゲームで遊ぶだけなら、次々と襲いかかる不幸を乗り越える主人公も好きではあったが、本人になった今はお断りだ。


「そっかぁ、残念。ジラール男爵なら分かってくれると思っていたのに」


 お前が作ったゲームで遊んでいたからか?


 ったく、勝手に変な親近感を持ちやがって。


「俺は貴族らしい贅沢な暮らしを求めているんだ。不幸属性はお前だけにしてくれよ」


 デブ親父との婚約を指摘してやったら、むっとした顔になった。


 思い出して嫌な気分になったんだろう。


 予想していたとおりの反応である。


 ざまぁみろ。


「ふーん。そんなこと言っちゃうんだ。せっかく、もっと良いこと教えてあげようと思ったのに」


 アルコールが回ったのか、セラビミアは子供っぽく頬を膨らませていた。


 元がアイドルをベースにした顔なので、ぱっと見は可愛らしく見えるのだが、中身は最悪だからな。


 世の男は騙されても、俺はなびかんぞ。


 ルミエやアデーレの方が可愛い。


「俺にとっては良いことじゃなく、悪いことだろ」


「お、分かってるね」


 拗ねていたと思ったら、今度は笑い出した。


 酔いが回ってるな。


 グラスに注ぐのがめんどくさくなったのか、ワインボトルを手に持つと直接口を付けて、グビグビと喉を鳴らしながら飲み出した。


「俺の分まで飲みやがって」


「いいじゃん。お礼にもう一つだけ、重要な設定を教えてあげる」


「なら許してやる」


 俺は知らないことの方が多い。


 少しでも多く情報は持っておきたいのだ。


 酔って隙だらけのセラビミアの言葉なら、信じてやってもいいだろう。


「貴族の一部はね、未だにヴァンパイア殺しを使命だと考え、技術を伝えている家があるんだよ」


「絶滅したのに、か?」


「うん。どこかで生き延びているんじゃないかって、不安に思っているらしいね」


 勇者であれば外交の場にも出て、様々な貴族と交流する機会はあったはず。


 ゲーム上だけの話ではなく、この世界においても、ヴァンパイアを警戒している貴族がいるのは間違いだろう。


「そいつらがヴァンパイア・ソードの存在を知ったら、どんな行動を起こすと思う?」


 襲ってくるのであれば、対策をしなければいけない。


 ヴァンパイア・ソードは腰にぶら下げる装飾品にして、戦うときは別の武器を使う必要はある。


 またドレイン能力を知っているヤツらも多いから、箝口令を敷いておかなければならんぞ。


「安心して。すぐに何かをしてくることはないよ」


「どうして、そう思う?」


「吸血能力を持つ武具は、いくつかあるからね。剣に魂が封じられているって気づかれない限り、安心していい」


 もし本当であれば、一定の説得力はあった。


 ヴァンパイア・ソードの正体を知っているのは、俺とセラビミア、あとは後ろにいるアデーレだけだ。


「この話は誰にも言うなよ」


 後ろを向いて、護衛のアデーレに言った。


「もちろんです。絶対に言いません」


「良い返事だ」


 信じ切るのは性に合わないので、保険をかけておきたいところだが、今は無理だな。


 これからも俺の側に置いて、他者との関わりを減らすぐらいしかできない。


「仲がいいんだね」


「お前と緑の風も似たようなもんだろ」


「うーーん。どうだろう?」


 セラビミアが羨ましそうに言ってきたので、突っ込んだのだが意外な反応だった。


 領主になっても付いてきているので、そこそこ仲が良いと思っていたんだが。


「結局、彼女たちは私の肩書きに従っているだけだからなぁ。お尻や胸は触らせてくれるけど……ジラール男爵とアデーレちゃんのような信頼関係は築けてないと思うよ」


 立場ある人の贅沢な悩みって所だな。


 命令に従うのであれば問題はないと思うのだが、セラビミアは考え方が違うようだ。


「助けてくれるなら、何を見ていようが関係ないだろ」


「ジラール男爵は、そいういう考え方なんだ」


「私を見て! なんて、ガキが親に言うセリフだ。大人なんだから割り切れよ」


「割り切るねぇ……」


 続く言葉をワインと一緒に飲み込んでしまったようだ。


「で、他に役立つ情報はないか?」


「全部教えたら用済って言うでしょ? だから教えてあげな~~い」


 ムカつく言い方ではあるが、同じことを考えていたので何も言えん。


 仕方なくルミエが戻ってくるまで、ワインを飲み続ける。


 酔いが回って女好きのジャックはセラビミアに手を出せと言ってきたが、ねじ伏せる。


 何が起こるか分からない恐怖が勝ったのだ。


「……ねぇ、もっと飲んでもいい?」


「好きにしろ」


 勇者と仲が良いアピールをしておくことは、貴族の俺にとってメリットは多い。


 貴重な情報を提供してくれたことだし、気が済むまで付き合ってやるとするか。


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