第137話 必ず勝利をお届けします

『サンダーレイン』


 雨のように、雷がデュラーク男爵の兵たちに降り注ぐ。


 直撃したヤツらは肌が焼けて倒れ、周囲にいた兵たちも感電。


 持っていた盾や槍を落とす。


 魔力によって身体能力を強化していることもあって、即死しなかったようだが重傷だ。


 まともに戦える状態ではないだろう。


「放て!」


 ルートヴィヒの号令によって俺の兵が矢を放つ。


 先ほどの魔法によって動けないため、回避なんて不可能だ。


 喉や腹などに突き刺さると、次々と倒れていく。


「弓を捨てて、武器を持て!」


 あと二回か三回ほど一斉に矢を放てば全滅させられると思ったのだが、ルートヴィヒは攻撃の中断命令を出した。


 理由は明白である。


 デュラーク男爵の精鋭部隊が三人一組のチームに分かれて、橋を渡ってきたのだ。


 分散して動いているため、もう一度、緑の風が上級魔法を放っても、先ほどのように一網打尽にはできない。


 ここからは、兵が正面からぶつかり合う戦いになるだろう。


「うぉぉぉおおおおッ!!!!」


 雄叫びを上げて、俺の兵が走り出した。


 手始めに雷魔法を受けて動けなくなった敵兵を斬り殺していく。


 戦意が高まった頃にデュラーク男爵の精鋭部隊が到着し、ついにぶつかった。


 兵の技量はほぼ同じ。


 装備はデュラーク男爵だが数は、こちらの方がやや多い。


 兵だけでは勝敗が分からず、拮抗している。


「私も行きますか?」


 アデーレが参加すれば、勢いは一気にこちらへ傾くだろう。


 だが、そんなことはしない。


 別同部隊がいたら、今が襲撃するベストタイミングだし……ほら、実際にこちらに近づいているじゃないか。


 恐らく迂回してやってきただろう金属鎧を着た男が三人、馬に乗って近づいてきている。


 装備からして、ジラール領の兵ではない。


「兵の戦いはルートヴィヒに任せる。俺たちはアレを倒すぞ」


 正面から戦う日が来るのは分かっていたからこそ、厳しい訓練をしてきた。


 その成果を見せてもらわなければ困る。


「あれを攻撃しても良いの!?」


 緑の風の姉であるオリビアが、弓を構えながら聞いてきた。


 もしかしたら、俺の仲間かもしれないと思っての発言だろう。


「射殺せッ!」


「乱暴な言葉ね!」


 直接的な表現が気にいらなかったようで、文句を言いながらオリビアは弓を放つ。


 妹のリリーも続くが、剣で撃ち落とされてしまった。


 馬に乗りながら矢を切るなんて普通はできない。


 別動部隊の三人は、技量が高いぞ。


 驚いていると前にいる二人が緑の風に向かって行った。


 残りの一人が、馬を走らせながら一直線で近づいてくる。


「アデーレ、護衛の時間だ。アイツを倒せるか?」


「もちろんです」


「良い返事だ。今回も共同で戦うぞ」


 先ずは馬を狙う!


『シャドウ・バインド』


 馬の影が縦に伸びて、足を絡め取る。


 走っている時は足元が疎かになりやすい。


 レッサー・アースドラゴンの時と同じように、馬が転倒した。


 乗馬していた兵は巻き込まれる前に跳躍、無事に地面へと着地する。


 腰に付けていた盾を持つと、大声で叫んだ。


「我は、デュラーク男爵の嫡子、ルベルターだ! ジラール男爵の首をもらうぞ!」


 盾に付いている紋章からして、嘘はついてなさそうだ。


 兵舎で確認したデュラーク男爵の息子だというのは間違いなさそうだ。


 切り札として投入されたのに相応しい、実力を持っていることだろう。


「お前ごときに俺の首は取れん。今、降伏するなら命は助けてやる。どうする?」


 家を賭けた争いなのだ。


 ルベルターに降伏するなんて選択肢はない。


 俺の温情は当然のように無視されてしまう。


「死ね!」


 たった一歩で数メートル進み、近づいてきたが、俺は両腕を組んだまま動かない。


 突き出された片手剣の刀身が迫ってくるが、間にアデーレが入ってヒュドラの双剣で上に弾き飛ばす。


 ルベルターは腕が上がった状態で、バランスを崩しながらも後ろに下がろうとする。


 させるかよ。


『シャドウ・バインド』


 影が伸びてルベルターの足に絡みついた。


「くそっ!」


 拘束できたのは一瞬。


 すぐに破壊されてしまうが、充分な仕事をしてくれた。


 俺が魔法を使ったのと同時に動き出したアデーレが、刀身に猛毒が浮かぶヒュドラの双剣を振り下ろす。


 必殺のタイミングだと思っていたが、ルベルターは盾を滑り込ませて防ぐ。


 反撃を警戒してアデーレは後ろに下がった。


 ルベルターは無謀に突っ込んでくることはせず、盾を構えながら俺たちの様子を観察している。


「ビビってるのか? 最初の勢いはどうした?」


 少し煽ってみたが、変化はない。


 無能な兵と違って状況は正しく把握できるか。


 アデーレの攻撃を受けきったところからも、油断して良い相手ではないな。


 横目で緑の風の様子を見る。


 戦況は彼女たちが有利なようで、少しすれば襲ってきた騎士は倒せるだろう。


 兵の方は、こちら側が劣勢だ。


 緑の風を援護に回すしかないな。


「一人で戦って勝てるか?」


「ジャック様が望まれるのでしたら、必ず勝利をお届けします」


 頼もしい言葉が、アデーレから返ってきた。


 最強キャラの名にふさわしい活躍を期待しているぞ、といった意味を込めて背中を軽く叩くと、姿がブレて俺の視界から消えた。


 瞬間移動かと見間違うほどの速さでルベルターの右側に回り込み、ヒュドラの双剣を振り上げた。


「うぉおおお!!」


 ルベルターも俺と同じく、アデーレの姿を見失っていたようで、慌てて転がるようにして回避する。


 トドメを刺すべく、アデーレがヒュドラの双剣を突き刺そうとすると、ルベルターの持つ盾から衝撃波が放たれた。


 体重が軽いこともあって、アデーレは十メートル近くも吹き飛ばされてしまう。


 魔法効果が付与された盾か。


 総力戦ということもあって、デュラーク男爵は特殊な防具を持ってきたようだな。

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