第104 野盗は全員殺すから。絶対に逃がしたらダメ
私と旦那様から貸していただいた五人の兵は、野盗を釣るために幌馬車に乗って街道を進む。
御者席には商人と冒険者に変装した兵が三人、窮屈そうに座っていて、最低限の護衛を雇った行商人に見えることでしょう。
私と残りの兵は布をかぶって荷台に乗り、襲われるのを待っています。
事前情報で今日ぐらいには食料が尽きるので、襲いにかかってくると聞いています。
そんなときに私たちが街道を通るんですから、エサだと思って食いついてくれることを祈るばかりです。
「野盗は全員殺しますから。絶対に逃がしたらダメですよ」
旦那様の領地で活動していたセシール商会を潰したこともあって、一時的にだけど物流は行商人たちに頼っている。
そんな彼らの安全を脅かす野盗の存在は許してはいけない。
愛しい旦那様の命令なんだし、絶対に目標は達成しなきゃ。
悪党を殺せと、私に流れる騎士の血が騒ぐ。
一緒に隠れている兵たちも同じ気持ちなのか、みんな殺気立っていた。
「もちろんです。ジラール男爵と奥様に勝利を捧げると誓います」
奥様っ!!
なんて素敵な響きなでしょう!
ちょっと悪そうな顔つきが魅力的な旦那様の妻になると思うだけで、体が熱くなって頭がぼーっとして困っちゃうっ!
こんな重要なお仕事を任せてもらえるなら、旦那様にも愛してもらっているのは間違いない! 決して、私の片思いじゃないんだから!
家のためにも旦那様の一番じゃなければいけないし、絶対に負けられない。
「ユリアンヌ様、この先に見る草原から野盗が出現するそうです」
馬車の速度が遅くなったような気がしました。
頭にかぶっている布の隙間から外を見る。
街道の横は背の高い草が並んでいて、人が隠れていても分からないようになっていた。
空は薄い雲が広がっていて周囲は薄暗い。
少しだけ不気味な雰囲気があって、寂しくなったけど我慢する。
旦那様の周囲は敵ばかり。
戦わなければ生き残れないジラール家に、弱気な態度を見せるような女は不要だから、常に強気じゃなきゃいけないの。
弱い私を見せてしまったら旦那様に見捨てられちゃう。
それだけは死んでも嫌だと思うと、自然に闘志が湧いてくる。
使命を思い出せば、先ほど感じていた寂しさはなくなっていた。
「敵襲!」
御者席から声が聞こえてすぐに馬車が止まった。
布から出て立ち上がる。
複数の矢が馬に刺さって絶命しており、幌馬車の前には野盗と思わしき男が五名立っている。
後ろには十名ほど。
草に隠れ潜んでいる気配も感じるし、囲まれているみたいね。
「私は後ろの野盗を全員相手にする。御者席にいる三人は前を、残りは草むらに隠れている野盗を見つけて……殺せっ!」
命令を出したのと同時に短槍を持って荷台から飛び降りた。
女の私が出てきて驚き、そして野盗が好色な視線を向けてくる。
背筋がぞわっとして嫌悪感がひどい。
旦那様と同じ男だとは思えない汚らしい風貌だし、何より下品!
「ジラール領を荒らす罪人よ。命をもって償え!」
会話するのも嫌だったので、魔力を開放すると一足で目の前にいた男の前に立つ。
短槍を突き出して革鎧ごと胸を貫く。
相手は何をされたか分からない顔をしたまま。
返り血を浴びないように、短槍を抜きながら横に移動して近くにいた野盗を殴りつけてから、思いっきり股間を踏み潰す。
何かの割れた音がしたから、しばらくは動けないでしょう。
「この女、許さねぇ!」
ようやく野盗は襲われていると気づいたみたいで、三人が同時に襲ってきた。
斧が二つと、片手剣が頭上に迫る。
片手持ちした短槍を横にして、柄で斧を二つ受け止め、空いている手で刀身を握った。
「魔力で強化した私は無敵っ! 怖くなんてないんだからっ!」
力を入れると刀身が砕け散り、驚いた表情をしたまま硬直してる野盗に蹴りを入れると、血を吐き出しながら吹き飛ぶ。
斧を持っていた二人から動揺したのを感じた。
この程度で怯えるなら、最初から旦那様にケンカを売らないことね!
「死になさい」
数歩下がると、受け止めていた斧が地面に刺さる。
使い慣れていないのか、体勢を戻すことすら出来ずにバランスを崩すなんて……。
間抜けな顔をして私を見ている顔に、二連続の突きを放つと血を吹き出しながら力なく倒れた。
返り血で鉄のブーツが汚れたので、死体になった野盗の服でこすり取る。
「残りも始末する」
怯えて腰を抜かしている生き残りの六人に向かって、ゆっくりと歩く。
「許してくれッ!」
「食うために仕方がなかったんだ!」
「まともな仕事すらない、この土地が悪いんだよ!」
人を襲い、犯し、殺しておいて、自分に危機が訪れると泣いてわめく。
最低、最悪。
卑怯者には似合いの最後を与えなきゃ。
急所を外して体や足に短槍を突き刺していく。
ジラール領を蝕む害虫なのだから、罪悪感なんてまったくない。
回復ポーションなんて高級品は持っていないだろうし、このまま失血して死ぬのよ。
数分見守っていると、一人、また一人と息絶えていく。
全員が動かなくなったのを確認してから、周囲を見る。
進行方向を塞いでいた野盗は既に死んでいた。
旦那様からお借りした私兵も無事のようで安心です。
頭に血が上って忘れていたけど、旦那様には死なすなって言われてたんだっけ!!
大変! 忘れてました!
慌てて草むらに入っていった私兵を探そうとしたら、野盗の死体を引きずって街道に出てきた。
一人、二人……三人!
ちゃんと生きてる!
よくやった!
「無事なようですね」
「奥様に鍛えてもらったんですから、野盗ごときには負けませんよ!」
思いっきり鍛えてて良かった。
このスピードなら、山に向かった駄犬には負けないでしょう。
一番早く仕事を片付けた私に、旦那様は喜んでくれるはず!
頑張った兵達にはご褒美として、特別厳しい訓練をプレゼントしてあげるっ!
私兵が馬車に死体を投げ込む姿を見ながら、旦那様に褒めてもらえる未来を想像して、涎を垂らしそうになっていました。
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