[書籍化]悪徳貴族の生存戦略～領地を荒らしていた両親を昏睡させて追放したら、有能領主になってました。破滅フラグを叩き折り贅沢三昧な暮らしを目指す～

第61話 ジラール男爵も参加されるのですか？

「ありがとうございます」

　ヨンが俺に礼を言って、この件は終わった。

　俺の婚約者候補の中ではマシな部類だったので、もう少しだけ詳しく聞いてやろう。

　やらなければいけないことは山積みだし、さっさと進めるぞ。

「俺は嫁に対して何も求めていない。魔物討伐に精を出していても気にしないだろう。田舎男爵をパーティーに誘うような奇特なヤツもいないだろうし、一緒にいる必要すらない。婚約者が好き勝手動いても文句は言わん」

　戦いに明け暮れたいという女は、面倒くなくていい。

　俺の考えに近いし、お互いに無関心でいられるだろう。

　結婚するかどうかは別としても、ケヴィンをはじめとした家臣を黙らせるには、ユリアンヌを婚約者にするというのは案外悪くないのかもしれない。

「だが、喜ぶのは早いぞ」

　ユリアンヌより父親のヨンが嬉しそうにしていたので、ちゃんと釘を刺すことにする。

「我が領地の経営は苦しい。正直、フロワ家の方が裕福な生活はできるかもしれん。貴族らしい生活を望んでいるのであれば、今すぐに帰った方がいいぞ」

　もしユリアンヌが俺の金を無駄に浪費するようであれば、両親のように暗殺という手段はとらないだろが、実家に送り返すことぐらいはする。

　そうなったら女性としての名誉は地に落ちたようなもので、仮に俺と離婚しても次は見つからないだろう。

　できたとして、介護目的のジジィと無理矢理に結婚させられるぐらいか。

「もちろん、フロワ家に援助もできん。金か兵力を期待して結婚したいのであれば、別の相手に声をかけるんだな」

　わがままなことを言っているな、という自覚はある。

　家同士の結婚になるので、助け合う場面というのはどうしても出てくるからな。

　相手が怒りだしても不思議ではないと思っているのだが、ユリアンヌは笑っていた。

「騎士らしい活動を認めてもらえるのであれば、それ以外はなにも求めません。もし実家が援助を求めてきたら、縁を切ります」

　家との縁を切ってしまえば、ユリアンヌは俺しか頼る相手はいなくなる。

　仮に離婚したら帰る場所はなくなり、路頭に迷うだろう。

　そこまでの覚悟をしてでの発言だった。

「と言っているが、ヨン卿はどう考えている？」

　貴族だけでなく平民でも家長の意見がすべてだ。

　個人の考えを尊重しましょうといった考えはなく、誰もが家に縛られている。

　それを不自由ととらえるか、それとも守られて安心と考えるかは、その人次第だろうな。

「ユリアンヌが嫁いだ先に迷惑をかけるつもりはありません」

　言質は取れた。

　これでユリアンヌと結婚したとしても、俺の金が奪われることはないだろう。

　フロワ家が危機に陥っても助ける必要もない。

　なんとも都合の良い結果になったのである。

「わかった。俺の条件は以上だ」

　ユリアンヌを貴族の一員にできれば、他は何もいりませんといった考えは、ポイントが高い。

　他の婚約者候補と会っても、無駄だと思えるぐらいだ。

　恋愛、結婚といった幻想に時間や金を使いたくないので、この場で決めても良いと思っていた。

　最悪、婚約なら解消できるしな。

「では、婚約をしていただけるので？」

「ああ、いいだろう。これから婚約についての契約書を作る。少し待っていてくれ」

　この世界において、婚約や結婚に契約書は必要だ。

　両家と王家の三枚が保管する仕組みになっている。

　ここで王家が絡んでくるのには理由があって、一方的に裏切るような行為をしたら国が制裁するぞという、けん制に使えるのだ。

　相手がゲームキャラではなく人間だからこそ、契約という保険が必要なのだった。

「ルミエ、ケヴィンに先ほどの話を伝えてこい」

「かしこまりました」

　既に契約書は作りかけていて、俺の要望は書かれている。

　フロワ家の内容を記載するだけなので、すぐに終わるだろう。

　話は終わり、ルミエが部屋を出て暇になったので外を見る。

　契約をしてから屋敷を出ても、暗くなる前に第四村に着くだろう。

「契約が終わったら、私はすぐに出かける。悪いが見送りはできん」

「何かあったので？」

　当然、聞いてくるよな。

　隠すことではないので教えてやるか。

「我が領には四つの村がある。そのうちの一つが魔物の襲撃にあっている。これから兵と共に助けに行く予定だ」

「ジラール男爵も参加されるのですか？」

　聞いてきたのは、目をキラキラと輝かせているユリアンヌだ。

「その通りだ。俺の領地は俺の手で守る」

「素晴らしい考えです！」

　婚約の話をしていた時は、義務できていますという顔をしていたが、今は違う。

　生き生きとしている。

　俺が思っていた以上に戦いが好きなようだ。

「せっかく婚約者になるのです。私も参加させてもらえませんか？」

　話の流れから予想はできた。

　即答はせずにヨンを見る。

　無言で、お前の意見を聞かせろと伝えたのだ。

「よろしければユリアンヌを連れて行ってもらえないでしょうか。邪魔にならない程度には鍛えております」

「その場所が死地だとしても、同じことが言えるか？」

「もちろんでございます」

　即答か。

　歳は取っているが現役の騎士が言っているのだから、そこそこ戦えるだろう。

　婚約者の性格は知っておきたいし、第四村の状況を考えると少しでも戦力は欲しい。

　裏があるようには見えないし、許可しても良いか。

「わかった。そこまでヨン卿が言うのであれば、同行を許可しよう」

「わがままを聞いていただき感謝いたします」

「ただし、俺の命令には従えよ」

「もちろんです」

　いい返事だな。

　裏切りは許さないから、約束は絶対に守れよ。