第54話 仲間の仇を討ってやる、死ね!!!!!
「誰だッ!!」
斧を持ったボスが怒鳴ったが、一秒を争う場面なのにそんな無駄なことをしていいのか?
部下への指示や俺に攻撃するなど、もっと他に効果的な方法はあっただろうに。
正体を明かす必要はないので、無視して魔法を使う。
『シャドウバインド』
盗賊たちの影が伸びて体を拘束する。
魔法を使える人間は貴重であるため、使われること自体に慣れてない人も多い。
盗賊ごときが抵抗出来るはずもなく全員が拘束された。
ゲームの設定通りなら、こいつらは下水道を拠点にしている小規模な盗賊団で、他に仲間はいない。
捕らえたところで、こいつらを管理する費用が増えるだけ。
メリットは一切ないから、この場で処分しようと決める。
無言で次々と盗賊の首をはねていく。
お前らは、俺の魔力貯蔵臓器を強化する糧になるのだ。
「た、助けてくれッ!」
涙を流し、叫んで命乞いをしてくるが無視だ。
自分たちが犯した罪を後悔しながら死ねばいい。
「目的は金か? 俺たちは何も持ってねぇぞ!」
それは知っている。
ジラール領では、奪う相手すらない。
盗賊も貧乏だからな。
こいつらも、その日を生き抜くための財産しか持ってないだろう。
「うるさい。黙れ」
男の声を聞き続けるつもりはないので、影を伸ばして口を塞いだ。
モゴモゴと言っているが、さっきより静かになったので快適な空間になった。
四人の首を斬り飛ばして残りは三人というところまで進むと、怯えていたグイントは落ち着いたようで、俺に声をかけてきた。
「全員、殺すんですか?」
この世界の人たちは、ゲームのキャラクターではない。
条件さえクリアすれば、ずっと従ってくれるわけではないので、相手の感情を見極める必要がある。
「…………」
無言でグイントの顔を見る。
俺がやっている行為に嫌悪感を覚えているのであれば、方針を変えようと思っていたのだが、そんな雰囲気はなさそうだ。
純粋な疑問のように感じる。
このまま進めても問題ないだろう。
「当然だ。生かす理由はない」
「憲兵に出せば……」
「領主が適切に判断してくれると言いたいのか?」
「……はい」
普通の盗賊ならともかく、下水道に隠し部屋を作っていたのだから、こいつらを捕まえたら俺の所にまで話が回ってくるだろう。
追求する内容は隠し部屋をどうやって作ったのか、といったところだ。
そこら辺にいる盗賊が作れるような仕組みじゃないからな。
だが、俺はその答えを知っている。
『悪徳貴族の生存戦略』の設定では、過去にジラール領の当主が避難場所として作ったと書いてあったのだ。
代々、領民から搾取することの多かったジラール家は常に反乱に怯えていたので、抜け道や隠し部屋を町中に作っている。
過去の遺産というヤツだった。
「それなら今、判断している。黙って見ていろ」
「え?」
理解が追いついてないグイントから視線を離して、盗賊の首をはねる。
後は二人か。
先にボスの方を殺そうと前に立つ。
殺意のこもった目をしていた。
「人から奪い続けてきたくせに、お前は奪われる立場になると怒るのか?」
煽ってみるとキレたようで、顔を真っ赤にしながら影の拘束を破壊しようとしている。
俺の『シャドウバインド』の耐久力を調べるにはちょうど良い機会かもしれない。
先に部下の首を斬り飛ばしてからもう一度ボスを見ると、影を引きちぎるところだった。
自力で抜け出せる、か。
力の強い魔物に対しては一瞬、動きを止めるぐらいしか出来そうにないな。
「領主が自らの手で処分してやるんだ。感謝しながら死ねよ」
「なッ! てめぇ、ジラール男爵――殺人鬼かッ!!」
俺が当主と知って怒りがさらに上がったようだ。
ジャックになってから、この手の怨みごとは何度も聞いてきた。
いつの間にか慣れてしまったな。
「俺はこの土地を支配しているジャック・ジラールだ。何か文句があるのか? クレームは一切受け付けないぞ」
また煽って反応を探ってみる。
「お前が、お前のせいで、俺たちはこんな所にいるんだぞッ!!」
「違う。お前が判断して決めたことだ。俺に一切の責任はない」
「なッ!?」
こいつの言いたいことは、あらかた予想できる。
父親がやった悪政のせいで、盗賊になったとか思ってるんだろう。
気持ちはわかるが、それは眠り続けているオヤジに言うべきことであり、俺に不満をぶつけるのは見当違いというもだ。
「何を驚いているんだ? お前にそんな余裕はないはずだろ? 待ってやってるんだから、さっさとご自慢の斧で攻撃して来いよ」
嗤っていると切れた盗賊団のボスが斧を拾い、攻撃してきた。
「仲間の仇を討ってやる、死ね!!!!!」
確か、ゲームではレベル8ぐらいの敵キャラだった。
俺がどの程度の実力持っているのか調べたいので、魔法や毒に頼らず戦うと決めた。
斧を右に避けてから、腕を切り落とすべくヒュドラの双剣を振り下ろす。
抵抗を感じることなく、骨ごとボスの左腕を両断してしまった。
「ぎゃぁぁあああ!!」
普通の鉄製の武器ならもう少し苦戦しただろうが、結果は変わらなかっただろう。
俺のレベルは10前後ぐらい、といったところか?
切断面を押さえながらのたうち回っているボスを眺めながら、そんなことを考えていた。
「なんで、なんで貴族はすべてを奪う!」
その言葉は、罪を犯していない平民だけが言う資格を持っている。
盗賊になって他者から奪い、犯罪に手を染めたお前には、ジラール家を責める資格はないぞ。
「我が父が犯した罪は、私の代で償おう。だからお前も罪を償うんだ」
グイントを意識しながら心にもないことを言うと、ヒュドラの双剣を横に振るう。
ボスの首が宙に舞ってから、ボトッと地面に転がった。
「大丈夫だったか?」
貴族を襲えば反逆罪として即死刑。
この世界の常識であるので、グイントは俺の対応を受け入れてくれるだろうと思っていたのだが、怯えた顔をしていた。
やば! 対応を間違ってしまったか!?
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