第53話 いやーーーー!!
「罠はない。いつでも開けられる」
ルートヴィヒが行けと合図すると、アントンがドアを蹴り破った。
若い兵が入っていく。
すぐに後続の兵もなだれ込んでいった。
「お前ら誰だ!」
「どうしてここが!?」
「やっちまえ!」
部屋の奥から男の野太い声が聞こえたかと思うと、激しい戦闘音に変わる。
ルートヴィヒやアントンも戦いに参加しているので、この場には俺だけが残っていて、誰も見ていない状況だ。
部屋をのぞいてみると盗賊の数は5人、それに対して俺の兵は10人と数で上回っており、さらに戦闘も優位に進めている。
俺が参戦しなくても勝てそうなので、別の目的のために動くとしよう。
「確かここにあるはずなんだが……」
隠し通路のど真ん中にまで戻ると、壁をペタペタと触って仕掛けを探している。
実は奥の部屋は囮で、盗賊団のボスは別の場所にいるのだ。
プレイヤーはわかりやすいエサに食いついて盗賊を排除して帰還するが、本隊は別の場所にいて何も解決していませんでした!
サブクエ失敗!
残念!
みたいな、性格の悪い内容になっている。
初見でプレイしたときは、キーボードを叩き割るほどの怒りを感じたほどだ。
製作者は性格が破綻したクソ野郎だと確信した瞬間ではあったのだが、セラビミアを見る限り俺の考えは間違ってなかったな。
「お、あった」
天井付近に出っ張りがあったので押してみると、壁がスライドして通路の入り口が出現した。
ここから先が、本命だ。
ランタン一つ分だけの明かりを頼りに一本道を歩くことにする。
ゲーム内だと分岐はなく、盗賊団のたまり場はすぐ近くにあった。
どうやら現実も同じようで、すぐに通路の先から明かりが見えてきたぞ。
ランタンの明かりを消して闇に潜む。
しゃがみながらゆっくりと進み、明かりが届かないギリギリの場所に到着すると、部屋の中を見る。
盗賊の数は10人、部屋の中心には紐で縛られたグイントがいた。
蒼い髪は肩に掛かるほど長く、体の線は細めである。
背も低くて140cm台だろう。
髭などの体毛は一切なく女性のように見えるが、アイツは男だ。
要は、男の娘ってやつだな。
しかも不幸属性付き。
何かとエロいトラブルに巻き込まれることの多かったグイントは、一部のプレイヤーから熱狂的な支持を得ていた。
メーカーの自主規制によって過激な表現が抑圧された影響もあって、『悪徳貴族の生存戦略』のプレイヤーは、俺が考えた最強の不幸なエロイベントのイラストを描いてSNSに投稿していたらしい。
「ボス、コイツどうします?」
縛られたグイントの髪をつかんだ盗賊が、この場で一番ガタイの良い男に聞いた。
盗賊団のボスは斧使いだったのだが、ここも変わっていないようである。
壁にでかい斧が立てかけられていた。
ボスは髭が濃く、さらに胸がはだけたシャツを着ており、胸毛がアピールされて気持ち悪い。
腕や指、足にも毛がびっしりと生えていて、グイントと同じ性別なのかと疑問に思ってしまう。
「女ならこの場で楽しめるんだが……男なんだよな?」
「へい。股を触って確認したのでまちげえありませんぜ」
「チッ」
部下の回答に舌打ちをしたボスは、眉間にシワを寄せながら斧を手に持った。
「お楽しみの時間が作れねぇなら、さっさと処分するぞ」
グイントが捕まっている理由は、女だと思って誘拐されたから。
奴隷として売り飛ばそうとしたら実は男でしたという結果で、売り物にならないから処分される寸前という場面である。
「ボス! ちょっと待ってくだせぇ!」
「なんだ?」
「コイツ、売り物にはなりませんが、綺麗な顔をしているで、もったいねぇなぁと!」
現実でも不幸エロイベントが発生しそうだ。
隙ができるまで様子を伺う。
「ケツの穴でも十分楽しめるではねぇですか?」
「お前はなぁ……」
ボスは呆れた声を出すと床に座った。
他の盗賊達は静かに見ているだけ。
どうやら、みんなで変態趣味を楽しむつもりらしい。
「普通のプレイじゃ面白くない。嬲りながら遊べよ」
「へい!」
ボスからの許可をもらうと、グイントの髪を掴んでいた盗賊は縄を外し、馬乗りになった。
「ぼ、僕は男だぞ!」
「俺はそっちの方が楽しめるんでぇ!!」
涙声で叫んだグイントだが、盗賊を刺激しただけだ。
逆効果になってしまい、楽しそうに笑いながら股間が盛り上がる。
「いやーーーー!!」
必死に体を動かしたグイントの足が当たって、ズボンを脱ごうとしていた盗賊を吹き飛ばす。
拘束が緩んだので、逃げだそうとして立ち上がろうとしたが、盗賊の仲間が二人動いて両足と両腕を押さえつけられてしまった。
服を破かれて、グイントの上半身が露わになる。
薄らと筋肉は付いているが、どこか女性的な丸みがあって、本当に男なのか信じられん気持ちになってきたぞ。
「いい! そそるぜぇ!」
そろそろ限界だな。
助けるとするか。
『シャドウウォーク』
グイントの腕を掴んでいた盗賊の影に移動すると、背中からヒュドラの双剣を突き刺した。
敵が驚いている隙に足を掴んでいる盗賊の額も突き刺して、下半身が露わになった汚え男の両腕を斬り飛ばす。
数秒で三人を無効化した。
「うげぇぇ!!」
盗賊は痛みに耐えられず倒れると、泡を吹いて息が止まる。
ヒュドラの毒で死んだのだ。
これで敵の数は七人まで減ったのだが、順調に進められたのはここまで。
俺の周囲を盗賊達が囲んでいて、逃げ出せないようになっていた。
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