11.「ブザマン」ときめきの始まる時
少しずつではあるが歩くことから少し小走りに近い状態まで出来る段階になった。
小走りとは言っても、まだまだ周りから見ればおかしな走り方に見えているだろう。
「なかなか良いわよ、その調子ね」
芦屋先生はそんな僕の走りを褒めてくれる。
でも夕方になって来ていた、待っている二人に申し訳なかった。
その頃河原の土手で待っていた中島君と高野さんは・・・
周りも暗くなって来ていたが、小倉の走る姿に目が潤んでいる中島を見ている高野。
「中島君・・」
「ごめん、なんか修ちゃん・・・いや小倉が走る姿を見るのは久しぶりなので、なんか感激してね」
「そうなの、私も中島君の様子を見ていると一緒に感動してしまうわ」
「もしかしたら、もう二度と走る修ちゃんを見れないかもしれないかもとか考えた時もあったんだ」
(中島君本当は修ちゃんって呼びたいのね・・そうか、まだ遠慮があるのね・・・私も頑張ろう!!)
話しかけられて周りの様子に気が付いた中島君は「高野さん遅くなったから送って行くよ」と彼女を家に送るよう提案した。
「でも小倉君がまだ・・・」
中島君は少し声を潜めて囁くように耳打ちした。
「大丈夫だ、そこの茂みの陰にたぶん心配性の人が見ているから、後は頼んで帰ろう」
高野さんが茂みの方を見ると同じようにハンカチで目を抑える玲子さんがいた。
「ハリセン玲子さんね・・・本当に素敵なお姉さんね」
後ろから玲子に近づく中島君と高野さん。
「お姉さん」
「ヒェッ」
玲子は突然声を掛けられて驚きこちらを見たがその目は真っ赤になっていた。
「ああ、中島君と高野さんか、驚いた」
驚いたとは言え怒った怒った様子ではなくその声は涙声だった。
「高野さんが帰るのが遅くなると行けないので僕たちはここで帰ります。
小倉君に謝っておいてください。
あっ、そうそう、それと明日は休みなので遊びに行くからと伝えておいてください」
そう言い終わる前に高野さんが口を開いた。
「えっ、私も行って良いよね、もちろんだよね中島君」
「あ、ああ、大丈夫だよ」
「ふふふ、二人とも仲が良いのね。高野さん、遅くまでごめんなさいね。二人ともありがとう」
二人は帰って行ったが玲子はそのまま様子を見ていた。
「テーピングは大丈夫になったかしら?」
「はい、マーキングされた位置へはどの位置にも出来るようになりました。
それと少しずつですが足の裏も連続的に地面に着くことが出来るようになっています。
芦屋先生のお陰です」
「あら修ちゃん、芦屋先生じゃなくてアッキーって呼んでも良いわよ」
「いやそんな・・・恩人にそんな呼び方は出来ないですよ・・・」
「大丈夫、アッキーって言ってもらった方が私も気分が乗るのよ。
君は面白いわ、アスリートの匂いがするのよ、それも底知れないものを感じる。
本当なら私のところで長期間診療してあげたいのだけどね。
これからは電話とメールになるけどサポートしたいわ。
そうだ、体育の先生とか保険の先生でも良いのだけど、どなたかサポートできる人をまずは探しなさい。
その人と連絡を取ってあなた指導してもらうことにするわ」
「分かりました。
直ぐに見つかるかどうかわかりませんが探してみます。
ありがとうございますアッキー!!」
「そうそう、その呼び方よ!!修ちゃん最高よ!!さぁ~っ、また少し頑張りましょう!!」
その後ストレッチと簡易なルーティンを教えられ何度も練習した。
ほぼ夜の九時になり解放された。
「ごめんなさいね、すっかり遅くなってしまったわ。
でも間違いないわ、あなたは立派なアスリートになる可能性があるわ。
あなたは私の指導を受ける資格があるし私もあなたをこれからも指導したいの。
お願い今後も連絡を願いね」
「はい、ありがとうございます。
でもお金が。。。」
「大丈夫よ、あなたは特別。
私の指導であなたが特別だと言うことを教えてあげるわ。
安心しなさい、あなたはあなたの実力で私の指導を勝ち取ったのよ」
「すいません、まだよくわかりませんが、ありがとうございます。
これからもよろしく願いします」
そう言うと別れを惜しむ芦屋先生と別れた。
その後先生は車で走り去って行った。
土手への階段を上る足。
その足は間違いなく普通に近い歩き方で一歩一歩力強く大地を掴んでいた。
階段を上ると姉さんが立っていた。
「よく頑張ったね、帰ろう」
「うん」
そう言われて少し目頭が熱くなった。
「そうだ、中島君が高野さんが遅くなると行けないので送って行くと言っていたわ。それと明日遊びに来るって、修二はいい友達が居て幸せね」
「うん、でもその友達を繋ぐことが出来たのは姉さんのお陰だ、ありがとう姉さん」
「そっか~、じゃあ何か奢って貰おうかな・・・」
「今はお金があんまりないからね、また今度ねね」
「うん、待っているよ。約束だよ修二」
そんな会話をしながら家に帰った。
ただテーピングの相談を誰にすれば良いのか考えていた。
そう言えば松田君がテーピングとか言っていたのを思い出した。
「松田君に誰に相談したらよいか聞いてみよう」
そんなことを考え少し安心していたが、友達とは有り難いものだと再確認した。
家に帰ると母さんが相当心配していたようで、目が腫れていた。
「ちゃんと会えたの?」
「もちろんだよ、本当に僕にとって女神だよ・・・」
「その子は何てお名前なの?」
「それが結局聞けなかった、でも芦屋先生とは連絡が取れるから教えてもらうよ」
「芦屋先生?」
「世界的にも名前が通るくらい凄い先生のようなんだ。本当に凄いだよ」
「本当だ凄いね・・・」
姉がスマホを使ってインターネットで調べて驚いている。
僕もその時初めて本当に凄い人だと知った。
その後話は芦屋先生の喋り方とか人となりで盛り上がった。
翌日になると中島君と高野さんが遊びに来てくれた。
中島が興奮していた。
「本当に普通に歩けるようになるなんて思わなかった。俺は諦めていたことをまた期待するようになった」
高野さんが驚いていた。
「諦めていたこと?、中島君でも諦めていたことがあるの?」
「小倉の足は俺の思いだけでは治らないからね」
「どういうこと・・・」
「簡単さ、小倉と一緒に人を助けるのが俺の夢だ」
「えっ?僕と一緒に?」
「覚えてないだろうな、でも俺は覚えている。小倉君と一緒ならいっぱい人を助けられる。そう九レンジャーを現実にするんだ。高野さんはもちろん子供じみた話だと笑うだろうし、馬鹿みたいだと思うだろ。でも俺は本気だ本当にあんな組織が出来れば多くの人が助けられるんだ。そんな夢を小倉と見たいんだ」
「う~~ん、九レンジャー自体を知らないから何とも言えないけど。もし本当に現実になるならその仲間に入れて欲しいわね」
「修一、修一」
母が下で呼んでいた。
「ちょっと行ってくる」
そう言うと下に降りた。
「これね父さんは小さいからとあなたにどうかって言っていた服なんだけど着てみない?」
その服にはタグが付いていて、袖を通したあともない新品だった。
そうか、母さんは嘘が下手だった。
多分まともな私服を持っていない僕のために友達と一緒の時の服を準備してくれたようだった。
「ありがとう、父さんにも礼を言っておいてね・・・」
目頭が熱くなるのを感じながら二階に上がろうとしたとき。
「これ、使いなさい」
そう言われて財布を渡された。
「これはあなたのお金、お年玉とかいろいろ溜めたものだからあなたのために使いなさい」
そう言われて渡された財布の中身は十万円超える金額が入っていた。
「こんなに沢山?」
「今まで私達や親戚の人ががくれたお年玉よ。あなたは要らないと言っていたけど私が貯めていたの。お友達と一緒なんでしょ美味しいものでも食べてきなさい」
母のその言葉に泣きそうになりながら「ありがとう」と言っている自分が居た。
二階に上がると無いか食べたいものがあるかと聞いてみたが、中島は別のところに行きたいようだった。
「それならキャラクタショップに行こうよ」
中島がキャラクタショップへ行くと提案してきた。
「九レンジャーアイテムがこの部屋には必要だ。あれがあれば小倉君は最強になれるんだ」
なぜか高野さんが反論していた?
「中島君意味が分からないわよ」
「九レンジャーは小倉君と俺の夢だったんだ。きっと小倉君の思いを叶えてくれるはずだ」
九レンジャー・・・真似をして助けようとしたんだろうと言われて九レンジャーを僕が汚してはいけないと思い全ての思い出と一緒に封印してきた。
そうだ僕がやったことは九レンジャーがやっている人を助けることとな程遠いんだから。
「いや、僕は現実を見ないといけないから」
そう言うと中島が怒った。
「だめだ、俺たちは本当に九レンジャーを実現するんだ。修ちゃんはまた走れるようになる、昨日だってあんなに走れそうだったじゃないか。そうさ修ちゃんは何時も俺のヒーローなんだ」
「ありがとう、でも僕はヒーローじゃないよ・・・」
「ごめん、良いんだ。分かっている。ただお願いがあるんだ。この部屋に九レンジャーのポスターだけでも張って欲しい。きっとあの時のトキメキが蘇る」
「そうだな、一度キャラクタショップに行こうかな」
僕は帽子もマスクもなしに母さんの準備した服を着て外に出た。
この服は結構細身に見える服だった。
芦屋先生のテーピングのお陰か普通に歩けた。
本当に遊ぶための外出・・・それは何年間も出来なかったことだった。
二人と色々な所へ行った。
久しぶりにクレープとかパフェとか食べた。
少し離れた場所にあるキャラクタショップに着いた。
そこで三人娘たちに会ってしまった。
「聡子じゃないの?」
三人娘の中の内藤佳代子さんが声を掛けて来た。
「佳代子?偶然ね?」
内藤さんは高野さんに耳打ちをし始めた。
「ねぇねぇその人誰?中島君のお友達かなにか?」
「そう、中島君のお友達よ」
少しすると僕の方に来て目を見つめて来た。
「私、内藤佳代子って言います。高野さんの友達です。あっ、聡子またね・・・」
自分の名前を名乗るとさっさと去って言った。
「なんだろう?」
僕が不思議がっていると高野さんがひとこと言った。
「まさか小倉君だと分からないで別の人と勘違いしてるかも?それってまさか、佳代子ったらトキメキの始まりじゃないの?」
僕には意味が分からなかったが高野さんは不敵な笑みを浮かべていた。
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