8 想いが通じ合った日

 何週間か経って、真夜の骨折が治り、お医者さんに、松葉杖もいらないね、と言われた。

 治って本当に良かったけど、やっぱり、荷物持ったり、一緒に登校したりできたのは、真夜が怪我しちゃったおかげなんだなって思うと、正直、どっちのほうが良かったのか分からなくなる。


「やっほ」

「紗弥…」


 その日、骨折の影響で中止してた星鑑賞が再開した。

 今日はそんなに星はない。っていうか、ちょっとだけ曇ってる。


「どうしたの?」


 いつもより少しだけ、眉が下がった顔。心なしか、真夜の顔が赤くなっているように見えた。


 2023年6月12日。私は、この日を一生忘れないと誓う、ううん、忘れない。忘れろって言われても、絶対に無理。


「来て」


 まだ自分のベランダにいた私は、真夜の家のベランダへと場所を移す。


「今日はちょっと曇ってるね。天気予報では明日晴れるって…」


 言ってたけど。

 私がそう口にする前に、私の口は真夜の手によって塞がれていた。


「…!?」


 中学生には早いよね…?

 私はそう言おうとしたけど、唇にかかる吐息のせいで、鼓動が速くなって、それどころではなかった。




 真夜の顔が離れて行って、やっと話せる状況になったけど、私の口が言うことを聞いてくれない。


「足が治ったら、一番最初に伝えようと思ってたんだ」


 言ってしまえば、小学二年生の6月12日、中途半端な時期に引っ越してきて、すぐに仲良くなった真夜との出会いの日から、私たちの物語ストーリーは始まっていたのかもしれない。


「好きだよ、紗弥」

「…真夜」


 最近の女子がよく読む雑誌とか、少女漫画とか、そういうのはほとんど興味ないけど、有留ちゃんが見せてくれる少女漫画に、幼馴染が間近で告白するシーンが描かれていて、正直ちょっと『馬鹿らし!』って思ってたけど、体験すると違うもんなんだね。


 ずっと一緒にいた人と、もっと近づくって、なんかすっごいあったかいものに包まれてる感じがして、すっごい安心する。


「私も好きだよ、真夜」


 微かな星明かりに照らされた私たち2人の影は、もう一度重なり合った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る