2 真夜の笑顔と入学式

 そして、家を出るのは八時すぎ。

 流石に早すぎたかな。


 お父さんに行って来ますと言い、ガチャ…と玄関のドアを開けると。

 隣の一軒家から、見慣れた顔の男子と、その母が出てきた。

 …前澤真夜。私と同い年。


 小学二年生の時に引っ越してきて、それからは遊んだり、色々している。

 一応家族ぐるみの付き合いだから、夕ご飯を食べに行ったりしている。


「あ! 紗弥ちゃんにさーちゃん! おはよう!」

「あ! おはよっ、真夜くんと珠ちゃん!」


 …はぁ。

 いっつも、お母さんと真夜のお母さんが会うと、長話を始める。


 長年の付き合いで真夜も私も分かっていたから、無言で親たちのところを通り過ぎる。


「おはよ、真夜」

「はよ」

「…中学、楽しいと思う?」

「そうなんじゃねえの?知らねーけど。中学生って、なんか自分の夢に一歩近づける気がするんだよなー」

「確かに。いいじゃん、宇宙飛行士に一歩近づけるよ」


 私の言葉に、真夜は照れたのかいつもの癖で首を掻きながら、


「あ、あぁ。中学生活、頑張るわ」


 と言った。


「頑張れー」

「紗弥もな」

「え?」

「高校受験では自分で行きたい高校を決めるんだから。それまでに自分の夢、見つけないとじゃんか」

「…確かに。もうそんなお年頃かぁ」

「お年頃って。俺らまだ、今日から中学生、だろ?」


 そう言って声を上げて笑う真夜。

 私は、空を見上げるふりをして、真夜の笑顔を見る。

 鼓動が速くなる。


 こうなり始めたのは、最近。

 小学校の卒業式のちょっと前くらい。

 これが恋だって、初めて気づいたんだ。


「ほら、下見しに行くぞ」

「うん!…っていうか、足速い!」

「だって毎日めちゃくちゃマラソンしてんだから」

「はぁ~。私もやんないと」

「だぞ」


 私たちは、笑いながら走って学校に向かった。

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