1 日常

 ――遠くでアラーム音が鳴っている。

 あーもう、うるさいなあ。

 ううん……と伸びをしてから、パンッと、スマホを平手打ちした。

 

 まだ眠いけど、今日は起きなきゃいけない。

 何故かって?

 中学校に行かなきゃいけないからだ。


 それに今日は入学式。

 遅刻したらクラスメイトに笑われる気がする。

 でも、そんなに失礼なクラスメイトじゃなかったらいいな。


 私、堀川紗弥。今日から中学一年生です。

 結構鈍臭いところがあるのは、自分でも自覚している。


 今日は小学生の頃より二十分早くアラームをかけた。

 道理でいつもより眠いわけだ。


 あくびを噛み殺しながら、ベッドの上の布団を整え、寝間着から制服に着替え、階段を下りた。




「おはよ~」


 リビングにはコーヒーと香ばしいトーストの匂いが漂っていた。

 母は私の朝食をテーブルに置くと、


「おはよ、随分と眠そうね。今日早く起きたでしょ」


 とこっちを見ながら言う。

「うん、いつもより二十分早くアラームかけたから」

「そんなに早くアラームかけても家出るまでに時間ができるだろ。それで本を読んで紗弥はいつも学校に遅刻ギリギリセーフなんだ。気をつけろよ」

「い、いつ知ったの!」

「え?小学校の一番最後の個人面談」

「ちょ、なんでそこで先生言っちゃうのかなぁ」


 親と挨拶と雑談を交わし、食卓に歩み寄る。


「頂きます」

「朝ご飯食べるの早くないの?」

「学校を下見しておきたいから! 校舎内で迷子とかありえないし」

「下見に二十分必要かしら」

「時間に余裕を持てって、お父さんがいつも言うじゃん? それに初日から遅刻なんて黒歴史はいらないもん!」

「まぁ、確かに黒歴史はいらないわね。だけど、お母さんを巻き込むのはやめて欲しかったわぁ」

「しょうがないじゃん。下見も大事」


 そう言うと、私はいつもより速めに、ご飯を掻き込んだ。

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