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side. Akihito




保はすりすりと俺の首筋に額をくっつけ、

好きだ好きだと呪文みたいに繰り返す。





コレはただの酔っ払いの戯言。

頭では解っていても、コレがコイツの本心だって知ってるから…


突き放す事も、受け入れてやることも出来ない俺は。



どうしても、この手の遣り場に…困ってしまう。





すると保は、いきなり嗚咽を漏らし始めたかと思えば…次には堰を切ったよう、泣き出してしまった。








「ごめっ、ね…ほんとめーわくだよね?でも、ね…」



止まらないの、と黒目がちな目からポロポロと涙を零し…俺のシャツを濡らすから。



堪らなくなって思わずその小さな身体を…



躊躇してたこの手で、抱き締める。








「ンッ…そんな優しくするからっ、ぼくが甘えちゃうんだよぉ…」


俺の首に回した手をきつくして、頬に擦り寄る保。

普段コイツが押し殺してきた感情が、アルコールによって吐き出され…



俺の胸をまっすぐに射抜き、

心臓がバカみたいに熱を上げ脈を打つ。







「うえはらくっ…」


吐息が掛かるほど近くで、暫し見つめ合う。


そしたら、ふと保の濡れた瞳が伏せられて。

何故か唇に、釘付けにされちまうから────…







「んンッ───…」



気付いたらもう、



保の唇に…自ら食らい付いてた。









(な、にしてんだ、俺…)


ダメだと判ってんのに止まんなくて。

保が息を継いだ瞬間、頭を押さえて舌を捻込む。



中には戸惑う保の舌。


それを遠慮がちに捕らえ味わえば…

ほろりとした苦味が口内へと、広がっていった。








「んあッ、はぁ…ンッ…」


酒気を帯びた所為か、

保は艶っぽい吐息を漏らし弱々しく震えて。


そんな仕草が、余計に俺の理性を吹き飛ばすから…

息つく暇もないくらい夢中になって舌を巡らせ、貪った。








(ヤベぇよ…保───…)


これ以上はダメだ。

いくら互い酒に酔ってるからって…こんなの虚しいだけだってのに。



そう思いながらも、保から離れられないでいたら…







「う、えはらくっ…」


「ハァ、はッ…」


唇は触れたまま、名を呼んだ保はひとこと。





「ありがと…」


そう言って目を伏せ、あっさりと意識を失った。








ひとり現実に取り残され、

荒い息遣いで、腕の中の保を茫然と見つめる。






「はぁ、はッ……チッ───…」


一気に下降する熱に理性が復活し、

己が行動に堪らず舌打ちする。



それでも身体の中心に集まったまんまの熱が、

コイツとの接触によるものなのだと信じられなくて。




犯したその過ちの名を…俺は知らないフリをして。


無理やりに、胸の奥へと仕舞い込んだ。

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