15




side. Tamotsu






「ごめ~ん、待たせちゃったかな?」


「いや…」






せっかく上原君とふたりっきりで、彼の誕生日を祝う事が出来たのに…。



あの日初めて知ったお酒に、僕は惨敗した。






目が覚めたら既に陽はとっぷりと落ちていて。

当たり前だけど、上原君はもういなくて。


テーブルも台所も綺麗に片付いてたから、まさか夢オチ?…とか、不安になって後々確認してみたけど。



やっぱり夢なんかじゃなかったんだ。







こんなコトってないよね。

酔いつぶれて、キミとの貴重な時間をムダにしちゃったし…。


電話越しの上原君が、どことなく素っ気ない気がしたから。



もしかして怒ってたり…するのかな?







だからね、用意出来なかったプレゼントを口実に。

上原君をデート?…に誘ってみたんだけど…


了承はしてくれたものの。

会った途端によそよそしくって、未だにちゃんと目すら合わせてくれやしないから…。



かなりご機嫌斜め、みたいだ。








(う~…こんなことで、へこたれないぞ…!)





「前に灰皿も貰ったし、何も要らねえって言っただろ…。」


「いーんだよ、僕がプレゼント渡したいだけだから!」


いつも通りに接してるようで。

見上げた顔とは、ちっとも視線がぶつからなくて。

罪悪感に、胸がツキツキと痛む。




上原君のとやらで、かなり久し振りに再開して、小一時間。

未だに一度たりとも、僕をまともに捉えてくれない…

大好きな横顔。



つい泣きそうになりながらも。

遠慮がちに、ぼんやりと見上げていたら…






「わわっ…」


「保っ…!」


不覚にも何もない場所でつんのめった僕の身体が、

ぐらりと前方へと倒れて。


…すんでのところで、上原君の腕に救われた。






『あ…』


思いがけず、バチリと目と声が合わさる。


毎度の事ながら赤面してしまったのは僕…と、




まさかの…上原君も、だった。








「ッ…気をつけろよ。」


バッと勢い良く離れてく上原君は、やっぱり誕生日の事を怒ってるみたい。


だったらこんな無理な誘いなんて、

断ってくれれば良かったのに…律儀なんだから。








「ごめん…。」


「……何がだよ?」


あからさまに苛立つ上原君の声音に、

ビクンと肩が跳ねる。






「そのっ…折角の誕生日に、僕が酔っ払って台無しにしちゃったから…怒ってるんでしょ?」


「はぁ…?」



そうだよね、きっと。


せっかく上原君の方から誘ってくれたのに…

あんな形で有耶無耶にされたら、僕だってショックだもん。



何だか今にも涙が溢れそうになり、堪らず俯いたら…







「あ~っクソッ…!」


「うええっ…!?」



突然、上原君が叫んでグシャグシャと僕の頭を掻き混ぜる。


ムダな努力で頑張ってセットしてきたのに、

一瞬で滅茶苦茶にされてしまった。







「そんなんじゃねーよ、バーカ。」


「バッ、じゃなんでっ…」


腑に落ちない態度に不信感を募らせ、詰め寄れば。

あ──…と歯切れ悪く苦笑して。後ろ髪を掻き毟る上原君。






「マジで覚えてねんだな…」


「え…?」


「いいんだ、わりぃ…何でもねぇから。」


言ってる意味が解らなくて、首を傾げるけど。

上原君は言葉を濁すだけでまた、誤魔化すように僕の頭を掻き混ぜてくる。



なんとなく腑に落ちないけれど、もう怒ってはいないみたいだったから。


とりあえずホッとひと息、僕は胸を撫で下ろした。

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