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事態はある日突然、激変する。




それは綾ちゃんが風邪で3日間休んでた次の日の事。

心配でメールしたけど、相変わらず素っ気ない返信が一度あったきりで。


今日は来てるかなと、昼休みと同時に急いで様子を見にやって来たんだけど…。






(あっ、あれは─────)



教室の入口前、対峙する綾ちゃんと長身の生徒は…

噂の芝崎君だ。





(なんだろう…?)


なんだかんだ良い雰囲気だったハズなのに。

その日のふたりは、ちょっと険悪なムードを醸し出していて…。


複雑な面持ちで、向かい合っていた。







『話したいコトがあるんだ…』


『知らない…』


もしかして、喧嘩でもしたのかな…?

陽気で明るそうな芝崎君もなんだか怖い顔してるし。


何より綾ちゃんは、今にも泣きそうなくらい取り乱し…彼を拒んでいたから。







(あっ…!)


そんな綾ちゃんの手を、

強引に引いて歩き出す芝崎君。


ふたりの事は勿論、気がかりだったけど…



今は何よりも彼の方が心配だった。









(上原君…)


一部始終を見てたんだろう。

席を立ち…そのままじっと、綾ちゃんがいた場所を睨み付けている。



僕でさえ、あんな綾ちゃん初めて見たんだから。


春からずっと恋い焦がれ、日々観察していた上原君のショックは相当な大きさだろうな…。




あんなに拳を震わせて、

苦しそうに顔を歪ませているから。



僕の方が、泣いてしまいそうだ…。










─────────…




こんなの、見なきゃいいのに。

わかってる、わかってるのに…


キミを追わずにはいられない。





校舎の隅、ひっそりとひとり泣いていた綾ちゃんに歩み寄る上原君。


キミが夢にまでみただろう、その隣りに腰を降ろし。

メンソールの煙を漂わせていた。





わざわざふたりの正面、木々の影に身を潜め。

雨に濡れるのも無視して。情けないくらいキミを見てる僕は。



どうかしてるよね…。







(っ…────!)



あんなに警戒していた綾ちゃんが、

上原君を受け入れ、その身を彼の胸に委ねる。




醜い心。

親友があんなに苦しんでいるのに。



僕はなんて薄情なんだろ…。







あんな乱れた噂ばかりのキミは、

愛しい人へ…そんな優しい顔を見せるんだね。



けど、やっぱり辛そう。

綾ちゃんが泣いているのは、芝崎君の為だって解っているから。





手は届くのに、

触れられるのに、


余計虚しくて仕方ないんだ。







「ふぇッ…」



僕と同じように、

向こうからひっそりと戻って来た芝崎君を認め、


綾ちゃんの黒髪に口づけする上原君。






複雑に絡まる3人の知らぬ所、


僕はひとり孤独に雨打たれ、


涙を流した。






…やっぱり、見なきゃ良かった。

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