2






(あっ…やっぱり今日も見てる…)




「そろそろテストか~…でも綾ちゃんは余裕だよね。」


「そんなわけないだろう、僕も人の子なんだから。」



取り留めのない話をしながらも、僕の意識はある所に飛んでいて。


先程から突き刺さる視線────…正確には、綾ちゃんに向けられている眼差しに。釘付けにされちゃってる。







(ホント、素直じゃないなぁ…)


自然を装い、綾ちゃんの仕草や言葉ひとつひとつ噛み締めるよう…密やかに見守るその姿。


のその行動は…

気付けば僕らが3年になった頃から、始まっていた。








最初は彼に目を付けられ、

睨まれているのかなと思ってた。けど…


綾ちゃんを取り巻くクラスメイトの、異様な雰囲気に…違和感を感じたんだよね。






綾ちゃんが3年になってから、常にひとりぼっちなのは知っていた。性格的にそうなるかもっ…て、不安もあったから。



でもなんていうか…このクラスの子達の態度は、

あからさま綾ちゃんに線を引き、避けているようで。


そしてみんなが、今僕が感じている視線の主…

上原うえはら 昭仁あきひと君”の存在に、怯えているような気がしたんだ。








予感は見事的中。

それとなぁく綾ちゃんに探りを入れたら…。

かなり疲れたように苦笑いをしながらも、こっそりと僕に話してくれたんだけど。




上原君は、見るからに不良と言われる人物で。

入学式の時から金髪ピアスの派手な格好で、先生や先輩達からも目を付けられてたような子。



案の定、初日から不良グループの先輩達から呼び出しされて。


上原君はたったひとり、しかもほぼ無傷で全員を返り討ちにし…一気にその名を知らしめた。





彼に取り入ろうとする生徒も、結構いたみたいだけど。上原君は上辺で慣れ合うのが苦手らしく、常に独りで目立ってた。







そんな上原君も、3年への進級が危ぶまれてたそうで。


当時僕と綾ちゃんの担任だった先生から、

単位を補う為の課題が出されたんだけど…。


案の定、上原君は聞く耳持たず。

担任は完全諦めモードで…当時クラス委員長だった綾ちゃんに、ポロッと愚痴を零したんだそうな。





綾ちゃんは一見冷たい人に思われがちだけど。

ホントは世話好き義理人情派の、熱い男だったりして。


綾ちゃんちは僕の家と同じ母子家庭で。

だからこそ解る気苦労なんかも、色々あったから…。


上原君みたいに何処か冷めた人を、放っておけなかったみたい。





友達でも面識ある知人でもない。

しかも悪い噂が飛び交う不良の上原君に、綾ちゃんは怯む事なく彼の元へ行き。課題提出を進言したんだそうな。




何度か上原君を訪問するうちに、一度乱暴に拒絶されたりもしたけれど。


その後、彼も根負けしたのか…期限ギリギリで課題を提出し。


なんとか3年生への進級を果たしていた。








意外にもクラスは綾ちゃんと同じ理数クラス。


きっと彼も綾ちゃんに感謝するだろうなって…

普通は思うんだけど。




暫くして気が付いた上原君の仕打ち。

綾ちゃんが言うには、逆恨みらしいけど…。


何かと絡まれたり、クラスで孤立するよう仕向けたりとか────…綾ちゃんも諦め半分に苦笑いしてたけれども。



不覚にも僕は、気付いてしまったんだ。





上原君のその態度、


ギラついた瞳の奥に隠した…



淡い恋心の、存在に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る