episode .1

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僕の名は佐藤さとう たもつ

といっても、名乗る以外にコレといった特徴が全くないんだけれど…。



身長も既に高校3年生になるのに、伸び悩んで162㎝とチビなうえに、軟弱でひょろっひょろときている。


勉強だってあんまり得意じゃないし…

理数系なんかもう、考えただけで眠たくなっちゃうくらいだ。






だから、2年生まで同じクラスで親友だった綾ちゃんこと水島みずしま 綾兎あやと君とは、文系(僕)と理数系(綾ちゃん)で離れちゃって。


教室も階が違うから、恥ずかしがり屋さんな綾ちゃんが、こっちのクラスまで来てくれる事はほぼ無く…。


僕があっちの教室まで会いに行かないと、

ぷっつりと繋がりが無くなってしまいそうで、



ちょっと寂しかったりするんだよ。







僕の場合は、人付き合いとか割と得意で。

その辺は問題ないけど…。


綾ちゃんはとっても繊細で、照れ屋さんだから。

すぐ緊張して無表情になってしまうとこがあって…。


僕が会いに行かないと、ホントひとりでぼーっとしちゃうものだから。心配なのもあって、ちょこちょこと通い妻してたんだけど…。






そこで僕だからこそ、気付いた事があるんだ。




それはとってもとっても、


悲しいコト…。










「綾ちゃん久し振り~!」


必ず週2、3回は来ようと決めてたんだけど。

ここんとこはクラスメイトの付き合いとかで、綾ちゃんの所に来るのは随分と久し振りになってしまった。


メッセージなんかを送っても、綾ちゃんはそういうのも苦手なものだから。返信もああとか、うんとか…素っ気ないものしか返ってこなくて。


やっぱりこうして顔を合わせる方が、安心するんだ。








「佐藤…」


午前中の休憩時間。

移動教室からの帰りに立ち寄れば、綾ちゃんはひとり自分の席で文庫本を読み耽っていたけれど。


僕を認めるとパタンと本を閉じ、ほんの少し表情を緩ませてくれた。






綾ちゃんはパッと見で無愛想だとか、

暗い怖いと誤解される事が多いんだけど。



僕は知ってる。

人より反応が薄いから解りずらいだけで。

ホントは恥ずかしがり屋さんで、人と接するのが苦手な不器用さん…そういうトコが、僕は可愛いなぁって思うんだ。


綾ちゃんなりに一生懸命答えようと、いっぱい考えてるのが解るから尚更。




誰彼と心を開かないタイプだけど。

僕のことは慕ってくれてるみたいだから…


とても救われてるんだよ。







人は誰でも裏表があって、何かしら汚い部分があるけど────…綾ちゃんは特別。

とってもとっても純粋で、本当にキレイなんだ。



何気にかなりの美人さんだし…

眼鏡にもっさりした髪型だから、僕以外に綾ちゃんの真の魅力はあまり知られてないんだけど。



…ごく最近までは、ね。

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