第10回 「混乱」
テンヤとの戦いの火蓋が切って落とされた頃、ナキは二人の様子を伺いつつ、魔道具の設置に
これで増幅の魔道具の設置は完了。次は結界ですね。しかし……効果範囲を一体どこまで設定すればいいものか……。
テンヤの
結界をいっそのこと森一帯にするか……。でもそれだとあまりにも時間がかかる。かといって、平野だけにとどめれば邪魔に思うテンヤによって呆気なく破壊されてしまうかもしれない。そうすれば街の方にまで……。
……どうすれば。
「……ッ!」
その時、私は背後に近づく何者かの気配を感じ取った。体を
「おわぁ! びっくりした!」
「あ、あなたは!」
そこにいたのはマドロ家長男のマイオ・マドロだった。人の良さそうな柔和な顔で私を見ている。
「マイオ、何故ここに?」
「あんたらを手伝いたくて来たんだよ! 親父も村の男達も離れたとこで待機してる」
「なっ……。誰から聞いたのですか?」
「あんたら運んできた馬車の
……そんな所から。御者にも金を掴ませるべきだった。ナキは後悔した。
「気持ちだけ受け取ります。危険ですので帰って下さい」
「なぁ!? そりゃないだろ。俺達だってアイツに一泡吹かせたいよ。アイツのせいで村は燃えちまったんだって皆知ってんだよ!」
「しかし……」
これ以上、人を巻き込むのは避けたい。もし、テンヤに見つかりでもしたら。
その時、かつてないほどの衝撃が平野の方から響いた。思わず耳を塞いだ。遅れて衝撃波がナキとマイオに届いた。
「うぉっ、なんだぁ?」
今までとどこか違う。テンヤの天災とは異なる感じ。そんな予感がした。一体何が……。平野へ意識を向けようとした瞬間、新たな気配をナキは感じ取った。この気配は……知っている。あの三人だ!
「そんな、まさか。くっ……!」
最悪の展開だ。これでは結界がどうという話ではない。理由は分からないが、ヴォイド達三人がハイシへ戻ってきた。魔力を発しながらこちらに近づいてきている。
「どうしたんすか?」
マイオが不安そうに私を見る。……彼らを守らなくては。しかし、オミヒトとの作戦もある。同時になんて不可能だ。
「マイオ、協力したいと言っていましたね」
「うん。俺だけじゃない村のみんなも手伝うよ」
……もう選んでられない、か。
「私の言うことをよく聞いて下さい。ここにある筒。これを地図に示された場所に設置して下さい。全部で十箇所あります。設置したらなんでも良いので合図を送って下さい。
「ごめん、もう一回頼む!」
「なぁっ!?」
マイオは飲み込みが悪かった。思わず情けない声を出してしまった。だから苦手なんだ。人を頼るのは。私は焦る気持ちを抑え、
もう後には引けない。マイオ、それに村の人々を巻き込んでしまった。絶対にテンヤ討伐を達成させなければ。
三人の魔力は強まっている。距離が近い。私は茂みから開けた場所に出て、彼らにわざと見つかるように仕向けた。私の役割上、ここで魔力を消費するのはなるべく避けたい。オミヒトに加勢した時、私が
「燃えた村以来だな。状況を教えてくれないか?」
「………」
あえて何も答えない。彼らには私に釘付けになってもらわなければ。今度はヴォイドが口を出す。
「テンヤが魔法を使ってる。それもかなり強めにだ。何かあったんだろ? 答えろよ」
彼らもテンヤの魔力を感じ取った。そのことに不信感を抱き、ここへ来た、そんな具合だろう。しかし、言葉とは裏腹にヴォイドの口角は上がっている。この状況を楽しんでいるのか? 彼は私とぶつかることを望んでる、そんな風に感じる。
「……教えないと言ったら?」
ドラナが挑戦的な下目遣いで私を睨みつける。
「やっぱり知ってるんだ。どーもここ最近テンヤの機嫌良かったんだよねぇ。テンヤが負けるとは思わないけどさ。何のつもりか知らないけど、教えないならちょっと乱暴して聞くよ、ナキちゃん」
私は
「三対一だよ、降参した方がいいんじゃない?」
ドラナが警告にも似た台詞を吐く。体から溢れ出そうなほどの自信を
「降参はしません。それに、丁度良い機会です。あなた方には身の程を知ってもらいます」
私は地面を蹴った。
ナキがヴォイド、ナイル、ドラナの三人とぶつかり合う数刻前、オミヒトはテンヤの台詞に絶望していた。
魔力が尽きたことは無いだって? テンヤの放った落雷に呼応するかのように、その言葉を聞いて俺は、痺れたように動けなくなった。
「俺ァ一日中やったって構わないぜ。けどお前はどうだろうな。耐えられんのか? そのバリアが持つのか? 試したことあんのかよ!!」
テンヤは絶え間なく魔法を纏った斬撃を俺に与え続けている。まだ緑光が防いでいる、けどいつまで? テンヤの言う通り、緑光がいつまで持つのかなんて正直分からない。恐怖が押し寄せてくる。
「城での威勢はどしたァ。何かしてみろよ。それとも何か? 殻に閉じこもることしか出来ない引きこもり野郎なのか!」
テンヤは蹴りを入れた。いじめっ子がするみたいな雑な前蹴り。それでも俺の心には充分効いた。怖い。勝てない。このままじゃ負けてしまう。自分の攻撃が効かないのに、テンヤの士気は全く落ちることがない。引き下がるだろフツー。それとも奴には勝ち筋が見えてるとでも言うのか? ならもっとだ。もっと防御力を上げないと。テンヤの攻撃が絶対に届かない厚さにするんだ。同調しろ!
俺の必死な思いに反応したのか、緑光の出力が膨れ上がり、光は俺の背丈を軽々超えた。この出力、尋常じゃない。それだけテンヤの魔力が強いことの証だ。
「うぉっ」
テンヤが後ずさった。と同時に、俺の中に訳の分からない多幸感が湧き上がってきた。何だこれは。……能力を使うのが凄く――楽しい。そう思った時にはもう遅かった。緑光は俺の制御を離れ、さらには俺の体の自由すら奪い、勝手に動き出した。
「あっははは!!」
勝手に笑いが出る。変だ、おかしい。緑光の同調のせいでテンヤの感情が流れ込んでいるのか? 何も出来ない。
「そうこなくっちゃなァ!」
テンヤも高らかに笑い、緑光が勝手に振り回した短剣をひらりとかわした。
「お前のバリアと俺の天災、どちらが上か勝負だ!」
俺の体はテンヤに向かって一直線に突っ走る。その勢いのまま短剣を突き出す。テンヤは紙一重で体を捻り、
「フンッ!」
テンヤはすかさず片足を引き、突きによる二撃目を放った。下から思い切り突き上げられるような衝撃で俺の体は地面から離れ、空に放り投げられた。
「グッ……」
ぐんぐん空へ昇っていく。……これヤバいぞ。しかし、まだ体の自由は戻らない。気づくと、テンヤが目の前にいた。え? 空にいるんだぞ。テンヤは、恐るべき身体能力で俺と同じ高度へ飛び上がっていた。激流を携えた剣を片手で持ち、水平に構える。
……来る! 俺の体は両腕を交差させ攻撃に備える。テンヤはもう片方の手を空に向ける。頭上からゴロゴロと音がした。……雷雲? テンヤが斬撃を放つ。同時に周囲がいななく閃光に包まれる。まさか雷と水の同時攻撃!? 景色がぐにゃりと歪む。とてつもない衝撃と共に瞬く間に彼方へと吹き飛ばされた。永遠に飛んでいくかと思われた俺の体は、森を超えた先の岩壁にぶつかり止まった。俺の意識は全く状況についていけてない。しかし、俺の体は自分が無事だと確認するとすぐに次の行動に移った。緑光の出力を足に集中させ、岩のクレーターの中心から弾丸のように飛び出した。……こんなことも出来たのか。感心する俺をよそに俺の体は、元いた平野に砂埃をあげながら派手に着地した。
「へぇ、さっきとは見違えたな。アレを耐えるとは結構驚いたぜ。なら、まだまだやれるな」
テンヤの闘志は衰える様子を見せない。まだ本気を出してない。四つの属性を扱える
「ククク、もっとやろう。勝つのは俺だ」
テンヤの気迫がさらに重みを増した。気迫だけで人を殺せそうなほどの圧を感じる。
「いいや、勝つのは……俺だ」
口が勝手に動く。さっきから笑みが抑えられてない。緑光もテンヤに呼応し、さらにその光を増した。テンヤの体が黄色い閃光に包まれる。雷を体に纏ったのか。一瞬の睨み合いの後、同時に飛び出した。振り抜いた剣がぶつかり合う。凄まじい爆発と衝撃波が周囲に撒き散らされる。動物達が一目散に逃げていくのが視界の隅に入る。……あ、駄目だこのままじゃ。こんな激しいぶつかり合いをずっと続けてたら、この平野を超えて人里まで被害が及ぶ。さっきだってそうじゃないか。岩壁にぶつかってなけりゃどこまで行ってたのか分からない。戦う範囲が広がれば巻き込む範囲が広くなる。誰かを気にして戦うなんて緑光は考えてない。テンヤに感化されてるんだ。
……俺の意思で戦わないと!
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