一週間
一週間が経った。
真白は少しだけ肌つやが良くなっていた。このまま続けていけば、この世のすべての人が振り向く美人になるんじゃないかしら、と思う。まあでも、これは真白が私の好みだからかもしれない。
それはともかく、そろそろ真白の不揃いの髪を整えたい。せっかくなら、バッサリ切っても良いかも。でも、せっかくならロングヘアを保っていて欲しい……。
「うん、これは一回バッサリと切ってから伸ばしたほうがいいんじゃない?」
私は嫌がる真白を連れて、幼馴染で美容師の
真白の髪をどうするのが一番いいのか。もちろん自分で考えて、理想を突き詰めたかった。でも、やっぱり専門家に聞くのが一番かもしれないと思ってしまった。普段私の髪を切るのは明なので、腕は問題がないのはわかっている。そして、私自身、明を人として信頼しているということもある。ゆるく巻かれたピンクグレージュの髪を一つに束ねたかわいらしい明は、私の欲望を知っている唯一の友人。さらに、今はその欲望に協力するしてくれる優しい子だ。
「じゃあ、さっそく切っていきたいんだけど……いいかな?」
「いいよ、どうせ切るつもりだったし。好きに切って」
真白は、素直に頷いていた。美容院はきらきらしているから、と渋っていたけれど、髪は切りたいらしかった。明は、真白本人の了承が取れると、早速真白を連れてシャンプー台に向かって行った。
明とは、幼稚園で出会っていたはずだ。少なくとも、私がお人形遊びに飽きていた頃には既にいつも近くにいた。
「くろえちゃん、おにんぎょあそびしよ」
そう話しかけてきた明を「いや」と突き放したことをよく覚えている。そして、明はその理由を尋ねてきた。幼い頃の私は、特に何も考えずに正直に話したし、明もそれを受け入れた。幼いからこその、純粋さと順応性の高さだった。
他にもこの理由を話した相手はいるものの、成長するに連れ、私からあからさまに離れて行った。今でも友達でいてくれるのは明だけ。
「ようやく見つけたの」
私からのそんな連絡に、彼女はよろこんだ。じゃあ、髪切らせてよ。そんなメッセージを送ってくるほどに。やっぱり私じゃないんだ、ざんねーんとも言っていた。明は……私の理想とはほんの少し違かった。見た目はもちろんかわいらしい。ただ、なにかがほんの少し違かった。
それが、ようやく真白に出会えた。なにもかも完璧な真白に。明との違いは未だ見つけられてはいないけれど。
「はあ……なんで髪洗う必要があるんだよ……」
考え事をしているうちに、真白たちが戻ってきた。
真白は人に触られるのが好きじゃないらしく、美容院の、あの心地良いシャンプーですら嫌なんて変わり者。
居心地が悪そうな真白はお構いなしに、明は手を動かし始めた。
「こ〜れは……バリカン使うね」
そう言うと、あの長い髪を肩のあたりで切り離していく。見ていて、ほんの少し気持ちが良い。
「見て、断面すごい」
切り離した髪の束の、霜柱のようになっている断面を私に向けて、明は無邪気に笑った。つられて私も笑う。
「あ、あたしにも見せて……って、なんだ、別におもしろくないじゃん」
真白は断面を見て、あからさまにがっかりとした表情になる。
「人の髪の断面なんて滅多に見られないもの。おもしろいわよ」
「あっそ」
既に興味を失っている真白は、さっさとしてくれと言わんばかりに大きなため息をついた。明はそんな真白を宥めながら、さっさと作業に戻り、私はそれをただただ眺めて時間をつぶした。
髪を切り終わった真白は、頭の軽さに慣れていないのかそわそわとしていた。あんなに長かった黒髪は見る影も無かった。
「すーすーする」
「ショートも似合って安心したわ」
美人はなんでも似合う。そのことに心底安心する。
もし、これで真白に魅力を感じなくなってしまえば、私は彼女を磨くことすらしなくなってしまう。そんな予感があったから。ようやく見つけた私の理想のお人形がゴミになってしまわなくてよかった。
「明、ありがとうね」
「いいよ。黒衣ちゃんの頼みだし、お代ももらってますし」
そう言うと、明は急にあ〜あ! と叫んだ。
「でも、妬いちゃうな。私、こんなにかわいくなったのにとうとう黒衣ちゃんの理想にはなれなかったんだもん」
「明のそういうところはかわいくて好きよ」
「は〜いはい、知ってますよ! 真白ちゃん、黒衣ちゃんはわがままで自分勝手だから、振り回されながらがんばってね」
「失礼ね」
真白は「あたしが振り回す側になるし」と返して、明にその意気だと言って子犬のように撫でくりまわされていた。
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