一夜明けて
朝7時。
いつものアラーム音で目が覚める。
起き上がり、リビングへと向かえば、ソファから落ちようとしている真白が目に入った。起こさないようにそっと体勢を直してあげる。
そして、私は朝ごはん作りにとりかかる。人のために作るのは久しぶりなものだから、少し楽しくなってしまう。ふわふわの玉子焼き、カリカリのベーコン、サクサクしたトースト。定番の朝ごはん。私はそんなに料理が得意ではないけれど、多少の失敗は愛嬌として捉えてほしいし、なにより今の最近まともに食事をしていないという真白には大抵のものがおいしく感じられるはずだ。
「ん……、おはよ」
キッチンの入り口から真白がまだ半分以上閉じた目を擦って入ってくる。
「おはよう真白。お腹空いてる?」
「うん……」
「よかった、それじゃあ朝ごはんにしましょ」
皿に持った朝ごはんを見せれば、真白は目を輝かせた。
「久しぶりの朝ごはんだ……!」
想像通りの反応に思わず頬が緩む。
真白は幸せそうに食べる。別にそんな顔で食べるほどおいしいものではないのに。
「ねえ、真白」
「なに?」
真白はトーストを頬張りながら返事をする。私に視線を向けることなく、どっちを次は食べようと玉子焼きとベーコンの間で視線を彷徨わせているようだった。
「とりあえずしばらくは真白の身体を健康的にして、肌質と髪質の改善に時間をかけようと思うの」
「そう」
「だからまずはいっぱいご飯食べてね」
そこでようやく真白は私のことを見た。
「おかわりして良いってこと?」
「そういうこと」
そう言って私が笑うと、真白はさっそくまあまあな量をおかわりした。
真白は朝食を食べ終わると、行きたいところがあるからとお金をねだってきた。お金に関してはなんの問題もない。でも、外出先で怪我でもされたらたまったものじゃない。できるだけ目の届く範囲にいて欲しい。だから、とりあえず今回は私も同行させてもらうことにした。
「真白にいくつか買いたいものがあるから、ついて行っても良いかしら?」
真白は少し迷っていた。その証拠に眉間にシワを寄せていた。綺麗な肌にしたいのにシワができたら台無しだからやめて欲しかった。
「まあ、いいけど」
散々迷った挙句、彼女はようやくそれだけ言った。それで十分だった。
朝食後、私は真白の身だしなみを整えることにした。薄く化粧をして、白いブラウスに黒いスカートというシンプルなコーデ、そして長い髪はおだんごにする。まだまだ私の理想には足りないものの、それでも彼女は綺麗。ああ、私って天才なのかしら。この先、もっともっと彼女を綺麗にできるはず。そう思うとわくわくが止まらなかった。
「あたしが行く場所、こんな格好して行く場所じゃ無いんだけど……」
「そのあとに私が連れてく場所はこういう格好のほうが浮かないわよ」
「ああ、そう……」
真白の顔にははっきり「落ち着かない」と書いてあった。スカートはしばらく履いていなかったと、真白は言った。
「嫌いなの?」
「いや、あんまり興味なかったから」
「これからいっぱい履かせるわよ」
真白はちょっと嫌そうな顔をした。そんな顔しないでよ、という気持ちを込めて、頬をつつく。まだ少しザラついていて、理想の肌とは言いづらい頬だった。
急いで自分の身だしなみを整えて、いざ外出。真白との初めてのおでかけだ。本来ならもっと気合いを入れてもよかったけれど、仕方ない。急ではあったし、私がもっと時間をかけようものなら、真白は私を置いていきそうだった。もちろんそんなことは許さないけれど。
「私と真白の初デートなのに」
少し不貞腐れた風を装ってそう言ってみる。
「デートって……。別に付き合ってるわけでもないのに」
「あら、付き合ってなくてもデートって言うときはあるじゃない」
「……あっそ。でも、今から行くとこなんてデートスポットじゃないよ。たまに、カップルもいたりするけど」
真白はそう言って、少し足を早める。私は絶対に置いていかれまいと、腕にしっかりと絡みつく。
「カップルでも無いのに」
「私とのスキンシップ、そんなに嫌かしら。裸の付き合いもした仲じゃない」
「無理やりでしょ」
「でも、私は真白の願いを叶えてるし、その見返りに真白も私の願いを叶えるって約束でしょ?」
「……そう。だけど! なんか着飾りたいって話だったじゃん!」
口約束だし、約束の内容なんてそんな詳細に覚えていないだろうとちょっと内容を誤魔化そうとしてみた。でも、案外ちゃんと覚えてるようで、簡単にはいかなかった。
「まあ、これも必要ってことよ」
「そ、そうなの?」
「そうよ」
まあ、嘘では無い。完璧に着飾るために怪我をさせたくないし、私の目の届く範囲にいてほしいからこうしているのだから。
そうこうしているうちに、真白の目的地に着いた。そこはパチンコで、真白は嬉々として私に1万円をねだり、それを一瞬で無にした。落ち込み、もう少し打つんだと言う彼女を宥めながら、いくつか真白に合いそうなスキンケア用品を買って帰った。「こんなの買うならもうちょっとくらい……」と言ってくる真白を見ながら、彼女の親が彼女を家から追い出した理由も気持ちもなんとなく理解した。
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