第13話
「陽向」
天文学部から走り去った陽向のことを追いかけてきた佐倉が陽向の名を呼ぶ。
「ヒッ!?」
それに対して陽向は悲鳴を上げて、一歩後ずさる。
「……そ、そんなに驚かなくても……。じゃなくて!亜蓮って人についてちょっと聞きたいんだけど!」
「……ッ!?居るよね!?亜蓮は!?ねぇ、覚えているよね!?居るよね居るよね居るよね!?」
亜蓮という単語を聞いた陽向の表情ががらりと変わり、狂気に彩られた瞳を浮かべて佐倉との距離を一気に詰める。
「覚えて、ない」
「……」
佐倉のその言葉を聞いた陽向の表情は絶望へと染まっていく。
「……でも!なんで覚えていないのか。その理由はわかる、かも」
「……ッ!?詳しく聞かせて」
「うん。そのつもりで来ているから……ちょっとふたりきりで話せる場所ないかな?」
「……ふ、二人で……う、うん!えっと、それならあそこが良いかな」
■■■■■
政府高官や特務機関などが使うような隠された施設の中に陽向と佐倉はやってきていた。
「そ、それで……?亜蓮のことをみんなが忘れちゃった理由って何?」
狭い部屋に向き合う陽向と佐倉。
「えっと……それを話すには私の身の上話から始めなきゃいけないんだけど」
佐倉は口を開き、ゆっくりと語り始める。
「私は人体実験のために産まれた人間だった。昔、第二次世界大戦中……その時に組織によって攫われた人たちの子孫。既に死者と扱われた実験動物の子孫として、日本の国籍にも乗っていない、そんな少女として私は産まれたの。実験動物として実験に使うために。私が組織によって施された実験の内容は非常に簡単で、遥か過去。人類がこの世界に産まれるよりも前の時代に霊長類として君臨していた生命が持っていた未知のエネルギーを打ち込み、人間に定着させられるかどうかという実験だった。私は昔の霊長類が一体何者なのかも知らないし、多分上の人間も知らないと思う。でも、そういう力がこの世界には確かに存在していたの」
「そ、それで……?」
「重要なのはこの先」
佐倉は一度言葉を切り、息を吸う。
「私の持っている力。その力を打ち込まれたことによって芽生えたその力の一つに……光で持って一時的に人との縁の繋がりを見えなくさせることで、存在を正しく認識させない……って言う力があるの。もしかしたら、亜蓮って人も似たような能力を持っていて、他人との縁を切ってしまうような能力を持っているんじゃないか、って思ったんだけど。どうかな?」
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