第11話

「え……?何を言って……?そ、そんな冗談はやめてよ」

 

 私は嘘一つ無い二人の言葉に動揺し、体を震わせる。


「……は?え?亜蓮……?そんな奴俺は知らないぞ?そこまで特徴的な名前の奴なら忘れたくても忘れられないだろうし」


「う、うん。私も別に冗談なんて言ってないけど……大丈夫?どこかおかしくなっちゃったんじゃ」


「嘘だッ!?」

 

 その二人の言葉に一切の嘘はない。そう……私には『見える』。

 震える手でスマホを取り出し、写真フォルダーを確認する。そこには亜蓮のたくさんしゃ。


「ひぃう」

 

 写真フォルダーにたくさんあった写真は一枚もない。


「え?……あっ」


 亜蓮が居ない。

 亜蓮が居ない。

 亜蓮が居ない。


「私は

 

 亜蓮が居ない。

 亜蓮が居ない。

 亜蓮が居ない。

 

 隣に居ない。

 近くに居ない。

 

 私のコミュニケーション能力は皆無に近い。

 それでも他者とのコミュニケーションを行えるようになったのは全て亜蓮のおかげだ。


 亜蓮はどこまでも優しかった。

 亜蓮はどんな人間対しても悪意を抱かなかった。

 亜蓮は……亜蓮は……亜蓮は……。

 

 亜蓮が居たから私はコミュニケーションをとることができた。

 亜蓮が居たから私は他者と向き合う事ができた。

 亜蓮が居たから私は一人でも前を向けるようになった。

 

 それは全て何かあっても亜蓮が守ってくれる……そう思っていたから。

 亜蓮は、誰よりも透き通った心を持った亜蓮が守ってくれると約束したから私は他の人と向き合えた。


「うぉえ……」

 

 視界が歪む。

 

 亜蓮が居ない。


 親友であった龍魔が居ないと告げた。

 

 お兄ちゃんと慕っていた佐倉が居ないと告げた。

 

 どんなに探しても亜蓮が居たという証拠は見つけられない。

 数えるの馬鹿らしいくらいたくさん撮っていた亜蓮の写真が一枚もない。私が消すはずはないのに。

 

 亜蓮が居たと証明するものは何もない。


「あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!?」

 

 私は奇声を上げて天文学部を飛び出した。

 亜蓮が居ない今。

 龍魔も佐倉も、私を閉じ込めてゴミのように利用しようとしている大人たちにしか見えなかった。


 私は一人に戻った。

 

 他人心の綺麗さを、嘘の判別が見える私の視界は再びドス黒い色に染まった。

 

 全ての人間に欲があり、全ての人間に醜さがある。

 例外は亜蓮だけ。

 光のないこの世界で私は人間という種を受け入れられなかった。


 怖い。怖い。怖い。


 私をいじめる『  』も私の体にひどいことをする『  』も私を蝕む『  』も私に笑顔で語りかけてくる『  』も全部同じ黒色だ。


 その違いを、私に対して向けられる悪意の判別を、私は行う事ができなかった。

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