第10話

 日本のみで起きていた大きな事象。

 死体が魔物へと変貌し、何もないところから魔物が誕生するという悪夢。

 

 とある学園で起きた襲撃事件以来。

 そんな最悪の事象は姿を見せなくなった。

 

 魔物がダンジョンからしか溢れ出さなくなった。

 ありとあらゆるところから魔物が湧いて出てくるという地獄をくぐり抜けた日本にとってそんな事象の対象を行うなど実に容易だった。

 都市部では一般市民が魔物をボコボコに狩り、それが出来そうにない農村部には国の人間を派遣して魔物を借り尽くした。


 魔物を倒し尽くし、スタンピードを乗り越えた日本は急速に復興へと向かっているのだった。


「ふー」

 

 国の要請を受け、日本各地を回っていた勇者と呼ばれる少女、陽向はようやく学園の方に戻ってきた。


「やっと帰ってきた……うぅ……」

 

 学園に帰ってきた陽向。

 その表情は非常に優れなかった。


「……LINAの友達登録から亜蓮の名前が跡形もなくなくなってた……嫌われちゃったんかな。うぅぅぅぅぅぅぅ。無理だ無理だ無理だ無理だ無理だ。あぁぁぁぁぁぁ」

 

 陽向は呻き、吐きそうになる己の体を抑える。


「あぁぁぁぁぁ。嫌われちゃった。嫌われちゃった……これからどうしよう。どう生きていけば良いんだろう……」

 

陽向は死んだような瞳を浮かべてぶつぶつと呟き続ける。


「いや、違う。あの子が私を嫌うはずない。嫌うはずがないの。うん。間違えちゃっただけ。うん。そうだよ。うん」

 

 陽向は自らに暗示をかけるようにぶつぶつと呟き続け、未だに避難所としての役目を果たしている学校を進んでいく。


「……おはよう」

 

 そして、陽向は天文学部の部室へと着き、ドアを開ける。


「あ、おはよう」


「おはよう」

 

 天文学部の部室でくつろいでいた龍魔と佐倉に陽向は挨拶の言葉を告げ、二人もその言葉に挨拶を返す。

 そこに亜蓮の姿がない。


「そ、それで……亜蓮は?」

 

 陽向の口から……その震える口から溢れ出すその言葉。


「「は?誰だ、そいつ」」

 

 それに対する龍魔と佐倉の声が重なる。


「へ?」

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