第3話

 冷え切った体を風呂で温まった僕。


「お風呂、ありがとうございました」

 

 女性から貰った大きなTシャツを一枚だけ羽織った状態で女性の前へと向かう。


「ブフッ!?」


「……?」

 

 僕の姿を見た女性はいきなり自分の鼻を手で抑え、顔を背ける。

 え?……え?な、何?僕ってばやっちゃいけないことした?


「エチエチすぎるわ……」


「……?」

 

 何を言っているのだろうか?


「ご、ご飯を今作っていますので、椅子に座っていてください」


「う、うん……」

 

 僕は女性の言葉に大人しく従い、テーブルの前の椅子へと腰を下ろす。

 ……。

 料理まで用意してくれる……本当にあの女性は何者なのだろうか……?あんな人と出会ったことあるかな……?

 むぅ……駄目だ。全然思い出せない。

 やっぱり人違いなのではないだろうか?


「むむ……」


「で、出来ました」

 

 僕が悩んでいる間に、女性が料理を作り終えたようで、机に料理を並べてくる。

 並べられた料理はフランス料理のフルコースだ。た、高そう……。


「どうでしょうか……?ゼロ様の出身国であるフランスの料理なのですが……」


「……???」

 

 フランス出身?本当に誰のことを言っているんだ?

 やっぱり、人違いだよね。これ。

 

「あ、あの……」

 

 人違いであると確信した僕は意を決して口を開く。


「な、なんでしょうか!?わ、私の料理では不服でしたでしょうか!?」


「い、いや!そうじゃなくて!僕を誰かと勘違いしていない……?」


「いえ。それはありえませんわ。私がゼロ様を間違えるはずがありませんわ」


「えっ」

 

 ものすごい真顔で女性が断言するので、僕は自分が間違えているんじゃないかと思えてくる。

 ……うん。いや、どう考えても人違いだと思うんだ。僕は。


「で、でも僕はフランス出身じゃないんだけど……」


「へ?」

 

 僕の言葉に固まる女性。


「い、いえ……ゼロ様は良くその場のノリで嘘をつかれるお方でしたから、あれも嘘だったのでしょう。お、覚えていらっしゃいませんか?ご、五年前にフランスの地で助けられたのですが……」


「フランスで……?た、確かに僕は五年前にフランスに行っているけど……初日に食べたカタツムリ料理の衝撃が大きくてそれ以外の思い出が……あっ。アルザス・ロレーヌで遊んだ記憶もあるような……?」

 

 よく思い返してみれば、マジノ線の観光ついでにアルザス・ロレーヌの方にも出向いて、色々遊んだような……。


「そ、そんな」

 

 僕の言葉を聞いた女性が絶望の表情を浮かべて崩れ落ちてしまったのだった。

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