第31話

 魔物に喰われ、血を流し、無垢な姿を晒す一人の小さな子供。


「お前はゴミだ」

 

 そんな子供の姿を呆然と眺め続ける一人の父親へと話しかける。


「お前は無価値だ。お前は無意味だ。お前無意義だ」

 

 ただただ僕はその男に毒を流し込んでいく。終わりなき毒を。


「何故お前が生きている?己の愛する妻も守れず、妻に託された子供すら守れなかったお前が」


「何をするために生きているのだ?」


「お前なんかが生きて何をするつもりだ?」


「息をするな。酸素がもったいない」


「その体は一体何の為にあるというのだ?」


「そんなにも己の命が大事か……?その無価値な命が」


 ただだた毒を吐き続けている僕。

 一度言葉を切り、息を吸う。


「いつまで見ている……?子供の遺体を回収しようとする気概すらないのか?お前には」


「あっ……あっ……あっ……」

 

 父親の口から声が漏れ出す。


「動くが良い」

 

 僕は小さな力で父親の背中を押してやる。

 その足にほんの僅かな魔力を流し込んでその力を上昇してあげる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 大きな雄叫びを上げて魔物へと殴りかかる父親。

 その拳は魔物と自身の手に出血を強いる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ」


 全てを失った父親はただただがむしゃらに拳だけをふるい続ける。

 しばらくもすれば、その魔物は動かなくなっていた。


「なんだ。戦えるではないか」


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「何故妻も子供も守ってあげなかったんだ?」


「俺は……俺は……俺はァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

 悲痛な叫び声を上げる父親を僕は見下ろす。


「哀れな男だな。何も守れず、だが、殺す力だけはある。そのまま誰も守ることなくその生命を終えるか?」


「俺は……」


「もし、君がそのまま死ぬことを良しとせず、命の危険にある多くの女子供を守りたいと願うのであれば……国立冒険者学園に来ると良い。力と、動き出すための精神力を授けてやろう。君には誰かを守る力がある……ではな」

  

 僕は父親をその場に残して、立ち去る。


「ふー」


「相変わらずエゲツねぇ……魔力で精神の誘導までしていやがる……こいつが少数の魔力すら持ってないの、神の計らいなんじゃないか?」


「なるほど。あんな意味のわからないことをしていれば、あんな人たちも生まれるよね」


「さすおに!」

 

 仕事をやり遂げた僕に向けられたのはとんでもない鬼畜を見るかのような視線であった。

 なんで!?


「なんか……酷くない?多分あの人、自殺はしないと思うよ?一応一人の人間の命は助けたんだけど……」

 

 来るのが遅くて、子供を助けることは出来なかったけど、


「子供の死体を見ても何も思わず、いきなり洗脳を始めるお前が引かれないはずがないだろ……俺はいつ見ても慣れねぇよ……ぉえ」

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