第42話
「そんな格好で何をしているの?有本さん」
少年は……自然に、友達に問いかけるような柔らかく平然とした声で狂人へと尋ねる。
黒ローブに覆われているその体は今、学校を襲っている連中と同じようだった。
狂人の体は黒ローブに包まれ、顔も見えない。その姿から『有本』であると断ずることは出来ないだろう。
「最初から、気づいたのか……」
狂人は震える声を返す。
先程までの闇は忽然と消えている。
狂人の身を覆い隠していた黒ローブが消滅し、いつもどおりの制服を身にまとっている『有本』の姿が現れる。
いつの間にか黒ローブは本棚にかかって、本を隠している。
蝋燭の光が本の題名の文字を照らす。
「何故わかった?最初から気づいたのか?」
「見ればわかる」
狂人の疑問に対する少年の答えは実にわかりやすかった。
「見れば、わかる……と?我が有本とやらの精神をすりつぶし、憑依していたことに気づいたか。それともただ精神が変わったことによってほんの僅かに発生してしまったズレを見抜いたか……」
忽然と消えた闇。
恐怖は、憎悪は既に狂人へと背を向けている。
「どちらせよ。実に良い目だ。……ただただ己の技量と素のステータスだけでこれを超えるだけのことはあるというわけか」
狂人の体から魔力が吹き上がる。
真っ黒なもやが狂人の体を漂って踊り、その細くてきれいな手にはいつの間にか黒い剣が握られている。
「しかし……何もかもが遅い。ここから先にあるのは我らが天下。御方に捧げる本来の日の本よ」
真っ黒なもやは踊り狂い、その大きなを増加していく。
蝋燭はゴミのように弾き飛ばされる。
蝋燭の光が消えたことによってこの場に暗闇が降りる。
だが、その暗闇は一瞬で駆逐される。
黒いもやが、壁を、天井を破壊したことによって外から光が入ってくるようになったのだ。
「あぁ……見よ……」
黒いもやはその量を増加させていく。
学校を飲み、破壊し、その姿を広げる。
その姿を既に黒ローブを制圧した日本特務機関の前へとさらけ出す。
「これが……我だ」
黒いもやが狂人を飲み込み、一つとなる。
そこにいるのは一つの怪物。巨人。
赤黒い血管の浮き出る真っ黒な鋼鉄の肌を持った巨人。
「ァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
狂人の口から黒いもやと大地をきれいにする風と空気を強く震わせる振動が吹き出す。
学校の校舎を容赦なく破壊し、その存在感を見せつける。
「御方が為に」
巨人の真っ赤な瞳が光った。
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