第43話

 圧倒的なまでの存在感と力を溢れさせる巨人。

 

「これが力だ……」

 

 全能感にその体を支配されている巨人へと堕ちた狂人。l


「……」

 

 既に崩壊した書庫の中。

 ただ一人平然とした少年の体がゆっくりと上昇していき、巨人の顔の前にまで上がってくる。


「愚かな。実に愚かな選択だ」

 

 少年の口から声が漏れる。

 どこまで言っても平然としているその声が。


「……愚かしい」

 

 空気が変貌する。

 少年の声にノイズが交じる。


「……ぁ」

 

 闇が再び生誕する。

 先程までとは比べものにならない。絶対的な闇が。

 世界を覆い尽くさんがばかりの闇がこの場を支配する。


「ぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 巨人の体が震える。

 先程までの全能感はない。

 初めて闇と邂逅したときに抱いた憎悪、敵対心などない。

 ただただその体を恐怖へと包ませる。

 闇の濃度が先程までとは何もかもが違っていた。


「汝は触れてはならぬところに到達した。それが汝が最期だ」

 

 闇が踊る。

 楽しげに、禍々しく、嗤う。


「ふー」

 

 闇が、人の形を象った闇が腰を落とし、己が手に握られている刀を構える。

 踊る闇は。

 轟き、荒れ狂い、絶大な力を持つ闇が。

 

 少年の刀を覆うようにして展開し、その刀を美しく照らす。

 紫紺の光が幻想的にきらめき、闇を照らす。


「終幕だ」

 

 その紫紺の光が螺旋状に渦巻き、圧倒的な力が空間を歪める。


「畏れよ。敬え。憂慮せよ。惧れよ。懼れよ」

 

 闇がきらめく。

 巨人は動けない。何も出来ない。何もさせてもらえない。

 ただただじっと動けず止まるのみ。


「ヴェルトオスクロ」

 

 世界が煌めいた。

 世界が割れた。

 世界が闇を見た。

 

 何も残らない。

 巨人の塵も残さない。


「……」


 闇の振るう刀が巨人いう生命を許さなかった。

 何もかもが消えた。闇へと呑まれた巨人は、狂人は、たった一人のちっぽけの男にはもはや何もない。

 何も残っていない。

 

「……」


「……」


「……」

 

 全ての生命の時が止まったかのように誰も動かない。

 ただただ恐怖し、己の命に固執する。

 そんな中。


「あ、あの……!」

 

 勇者だけが動けた。


「あなたは一体……!」


「ふっ……」

 

 唯一動いた勇者。

 そんな彼女を見て闇は微笑を浮かべ……その姿を消した。

 

 闇が晴れ。

 

 生命の世界へと戻る。

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