第41話

 それは闇だ。

 

 暗い闇。


 この世界の闇そのもの。

 

 ただそこにいる。

 

 ただただそれだけでありとあらゆる生命に生理的嫌悪と絶望と恐怖と怒りと憎悪を植え付ける。

 

 絶対悪。

 

 この世界に悪なんて存在しない。全ては正義と別の正義にぶつかり合い……そんなものは嘘であった。

 

 これだ。

 

 これこそが悪だ。

 

 絶対悪だ。

 

 全ての生命の力を持ってして殺すべき絶対悪だ。


「なっ……なっ……」

 

 膨れ上がっていく憎悪。

 だがしかし、それと同時に恐怖も……憎悪以上に膨れ上がり、体を動かす事ができない。

 足が脳の命令を拒否して、動きを完全に止め、ただただ絶対的な存在を前にして体を動かさんとする。

 ピクリとも動かないその姿は死んだふりをしている獣同様であった。

 そんな中。 


「有本さん」 


 吐き気を催すような、暗い声。終焉を暗示させる声。

 そんな声がこの場に響き渡る。

 

 あぁ……許してはおけぬ。許してはおけぬ。

 目の前の闇。

 わかる。この存在は今ここで必ず滅ぼさなくてはいけない存在だと言うことを。

 闇が発する声が狂人の憎悪の業火の勢いを強めた。

 

「……ッ!」

 

 揺らめく蝋燭の光が照らす。

 覚悟の決まった表情を。

 有本という名を冠している少女の表情を。


 コツッ

 

 一歩。

 闇が前に足を出す。


「……ぁ」


 その瞬間。

 闇が霧散し、一人の少年が姿を現す。


「え?」

 

 そこにいた存在は『有本』のよく知っている人物だった。


「な、なんで……?」


「何故?実に愚かなことを」 

 

 『有本』の言葉を彼は嗤う。

 

「友に会いに来るのに理由が必要か?」

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