第40話

「彼は一体……」


「また、あれが動いているの……」

 

 一瞬で消えた正体不明の存在がさっきまで居た場所を呆然と眺めていた陽向の隣。

 いつの間にかそこに立っていた玲奈が忌々しそうに呟く。


「あ、玲奈さん……」

 

 陽向は自分の隣に立っている玲奈を見て体を緊張で固まらせ、体を震わせる。


「まぁ……一体どういう存在かも理解出来ない存在を追うのも実に不毛な話ね。あれは一旦置いておくしか無いわね。全く……調査班は何をしているのかしら……それで?今、どういう状況かしら?」


「えっ……と。今、なんか黒いローブの人が学校の人たちを襲っていて、倒しきれていない感じ……先生たちも戦っているけど、負けちゃっている人も多くて……」


「死者は?」


「……出てる」


「不味いわね。本当に今日は最悪としか言いようがないわね。忌々しい。まぁ、良いわ。さっさとこんな不毛な戦いを終わらせてしまいましょ。東京都心で起きた最悪のテロ事件と比べれば人も少ないみたいだし」

 

 スーツをバシッと着こなした数十人の男女が学校の中へと入っていく。

 

「全く……今日は日本史上最悪に近い日ね。ペリー来航の次くらいに最悪の日じゃないかしら?」

 

 玲奈は実に面倒くさそうに体を動かす。


「この後の自己処理が今からでも憂鬱になってくるわ」

 

 学校で暴れ回る。

 

 ■■■■■


「あぁ……!愚か!愚か愚か愚か愚か愚か愚か愚か愚かッ!」

 

 古い本の匂いが立ち込める仄暗い書庫。

 唯一の光源である蝋燭の火によって灯される狂人の影。

 

「実に愚かッ!イーッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」

 

 書庫に狂人の笑い声が響き渡る。


「何もわからぬ国家の犬がッ!何も知らぬ欧米の犬めがッ!大和民族の誇りを、過去の英霊より受け継ぎし魂に背く売国奴共がッ!イーッヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。今日!今日この時より全てが変わるのだッ!正しき日の本の形が今……戻ってくる」

 

 狂人の巣窟。

 禍々しい狂人の住まう場。

 

 ぎいいい。


 そんな図書館の扉が開かれ……どんな狂人でも、どんな悪でも敵わぬ。

 

 この世の悪そのものが姿を図書館へと舞い降りてきた。

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