第36話

「先生ッ!銃ッ!気をつけて!」

 

 黒ローブが動いた瞬間に僕はそう叫ぶ。

 ゆらりと動く黒ローブの体。黒ローブから見える真っ黒な肌、その手からは拳銃が握られている。


「は?銃?」

 

 僕の警告。

 それに対して先生は理解できぬと言わんばかりの表情を浮かべる。

  

 当然の反応。

 魔力を持っている存在に対して銃火器は効かない。だからこそ、もはや誰も銃を危険物だとは見ていなかった。


「……ッ」

 

 隙。

 そんな姿はただの隙でしかない。あまりにも致命的すぎる隙だった。


「退いて」

 

 僕は先生を突き飛ばして、腕を前に上げる。

 

 パンッ 

 

 赤が視界を染め上げ、激痛が右腕に走る。


「……ッ!?」


「あいつの持っている銃は普通じゃないッ!魔法による抵抗は無意味ッ!絶対に射線に入らないで!」

 

 僕は先生に向かって叫びながら、物陰へと隠れる。

 

 他のクラスメートたちは既に安全な場所へと移動しているようだった。


「大丈夫なのか!?」


「心配なさらず。今は前の敵に集中を。銃を使う相手との戦いなんて始めてのはずだからッ!」

 

 先生へと警告を一つ告げてから僕は走り出す。

 相手があのタイプで良かった。これなら今の僕でも相手になる。

 魔法やスキル……魔力を無効化する銃を使うあのタイプはそもそも魔法やスキル、魔力をほんの僅かにしか持っていない僕との相性最悪だ。


 ダンッダッ

 

 向かってくる銃弾は全て刀で斬り弾き、大地を駆け抜ける。


「堕ちろ」

 

 抜刀術。

 太陽に輝く白銀が貫く。

  

 キンッ

 

 僕の刀は黒ローブの黒い肌に阻まれて何も出来ない。何もさせてもらえない。

 刃が通らない。 

 

「のいッ!」

 

 効かないのは最初からわかっていた。

 狙いは最初からその銃だ。

 腕を伸ばした僕は黒ローブの手に握られている銃をその手で掴む。


 ダンッダンッダンッ

 

 銃声が響き渡り、血肉がえぐられ、血しぶきがあがる。 

 それでも僕は銃口を掴んだその手を決して離さない。


「お願いします!」


「おうよッ!」

 

 黒ローブの男。

 そんな彼に向かって、大剣が。

 僕に気を取られ、銃を動かすこともできなくなった黒ローブに向かって。

 こっそりと僕の影に隠れて近づいてきていた先生の大剣が振り下ろされた。


 グチャ。

 

 不快な、何かが潰れたような不愉快な音がこの場に響き渡り、黒ローブはそのまま体を倒した。


「ナイスー」


「ナイスじゃないわッ!腕は大丈夫なのか!?」


「ん……?まぁ、大丈夫だよ」

 

 血だらけになってしまっている僕の腕を心配そうに見つめている先生に対して僕は安心するように言葉を話す。

 これくらいなら別に何とも無い。

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