第3話
「えー。三平方の定理より、ここの長さはわかるので、d=r−r′より、ここを引いて出てくる数は7なので……」
抑揚のない……眠くなるような先生の声に耳を傾けながら授業終了後に提出する宿題を片付けていく。
「す、すみません」
そんな中、つんつんと隣の席の人に肩を突かれる。
「ん……?」
僕はつつかれた方に視線を送る。
当然、そこに視線の先にいるのは僕の隣に座る転校生である勇者の少女、西園寺さんである。
「何?」
「えっと……消しゴムを忘れてしまって、貸してくれませんか?」
「ん?良いよ」
僕は自分の筆箱から消しゴムを取り出し、西園寺さんに貸し渡す。
「ありがとうございます……」
「うん。……あっ。別に敬語じゃなくても良いからね?同い年のクラスメートだし」
「ッ!……クラス、メート……」
僕の何気ない言葉を聞いて西園寺さんの表情に驚愕の色が広がり、そして、喜びの色が広がる。
「そう、だね!うん!クラスメートだもの!敬語じゃないほうが良いよね!うん!」
何故かテンション高く、西園寺さんは言葉を話す。
「うん。クラスメートだね」
僕も西園寺さんの言葉に頷く。
「でも、とりあえずうるさいかな。授業の迷惑になっているよ」
「あっ……」
「……」
黒板の前に立つ先生が無言でこちらを眺めていた。
うるさくしていた僕と西園寺さんをただただ無言で眺めていた。
「あっ……すみません」
西園寺さんが先生に頭を下げ、口をつぐむ。
「はい、ということでこれが内接する円の方程式を求める問題のやり方になります」
僕と西園寺さんが静かになったことで先生が授業を再開させた。
一限目の数学。
それを担当する先生。
暗殺者の異名を持つ先生。
特段注意をせず……静かにうるさい生徒の内申を容赦なく断罪する先生である。
静かにしていれば内申を引かれることはないため、普通に内職している生徒が大量増殖する授業である。
■■■■■
「あ、あの……ありがとう。消しゴム」
授業が終わり、授業中に終わらせた宿題を先生に提出した後、消しゴムを貸した西園寺さんが話しかけてくる。
「ん。別に気にしなくていいよ。僕ってば消しゴム三つくらい持っているし、そのまま借りてていいよ。じゃあ、僕はトイレに行くから」
集まってくるクラスメートたちから逃げるように僕は西園寺さんから逃れた。
「まさか……消しバトのために持ってきている消しゴミが役に立つとは……」
「は?ゴミ?消しバト用の消しゴムがゴミなわけないでしょ?」
僕はいつの間にか僕のそばに来ていた龍魔に全力で噛みつきに行った。
「物理でくるなよッ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます